第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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(あんなひとが国王だなんて最低よ!!)  先ほどの宴の様子からも分かるように、完全な肉欲の祭だ。  ヘサーム王自身が宴の最中淫楽に興じているのを見た事はないけれど、夜な夜な滞在している王侯貴族の女たちと一晩中交じり合っているらしい。  しかも逗留期限を一ヶ月から一年に延ばされてしまった。  座長曰くヘサーム王がわたしを大層気に入ったらしく、今年回る筈だった逗留先にはヘサーム王が全て対価を支払ったという。  あの鮮紅色と青紫色の鷹の様な瞳―――。  ベールで頭と顔全体を覆っていて、表情が分からない分不気味で恐ろしい。  舞台越しにいつも感じる視線を思い出しぶるっと身震いした。  欲情した男共の群れと異質な眼光のヘサーム王、二種類の目。  他の連中も気持ち悪くて苦手だけど、ヘサーム王も違う意味で苦手だ。  身体の線を見られているのは勿論嫌だが、何故かヘサーム王の視線は、身体を突き抜けて心が見透かされている様な感覚にいつも陥るからだ。  寝台から起き上がり、部屋の隅にある姿見に全身を映す。  赤と紫を基調とした露出度の高い民族調の踊り子の衣装。  それを身に纏った自分が曇った表情でこちらを見返している。  王宮広間に居た女性たちよりは隠れる面積は多いものの、上下二つに分かれた作りは同じ。  ブラ状になっている上衣は首の後ろの紐と背中の帯で縛って留めている。  腹と背が大きく露出され、腰から下は片側に大きな裂け目の入ったスカート。    頭から爪先まで金色の装飾品を身に着けている。 (こんな露出度の高い恰好なんてしたくない・・・)  男が喜ぶ恰好。  そんな姿の自分が嫌で視線を下に落とす。  優美に波打つ腰まである白金の髪、真珠のような白く透ける肌、西瓜のような膨よかで形の良い胸、滑らかな曲線を描く細い腰回り、桃の様に丸い尻、程よく肉の付いた大腿からすらりと伸びた脚、白魚の様な長く細い指。  きらきらと輝く翠緑玉色をした大きな瞳を、くっきりとした二重の瞼と長い睫毛が縁取っていた。  すっと通った高い鼻に、薔薇の様な唇と薔薇色の頬。  化粧は他の踊り子と違い、少し手を加えただけの自然なもの。  言わずもがな、アイーダは大層美しい踊り子だった。  派手な色の衣装と豪奢な装飾品でさえもその容姿を引き立てる小道具でしかない。  その美しさにあの妖艶な動きが加わるのだ、男共が欲情に駆られるのも無理は無く、女たちからは嫉妬の対象だった。
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