第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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 そのぽっかり空いた部分に鈴木 みつ子の記憶が嵌っている、そんな状態だ。  まるでSFみたいに時空旅行(タイムスリップ)したか、他の誰かと人格が入れ替わってしまった気分。  鈴木 みつ子として生まれ育ちOLをしていたのに、いきなり踊り子・アイーダになっていたのだから。 これは、俗にいう「生まれ変わり」なのだろうか・・・?  鈴木みつ子だった頃は幼少期から背も低くて太っていたし、いつも同級生からいじめられていた。  社会人になってからも上司や同僚から面倒な仕事を押し付けられる始末。  反抗しても自分の立場が悪くなるだけ、そう言い聞かせて周りに流されていた。  もちろん『お洒落』、『恋愛』なんて代物とは無縁だし、真っ黒な髪をお下げにして化粧もしなかった。  目も一重で小さくて、能面みたいに無表情。  いつも地味な暗い色のスーツを着ていたコンプレックスの塊。  ただ毎日会社に出勤し頻繁に残業もしながら黙々と仕事して帰宅。  休みの日は一人暮らしのアパートで掃除、洗濯、炊事に食料品の買い出しをして。  唯一の趣味だった図書館で借りた本を読む、365日。  なにもない無意味な繰り返しの日々に、ただ流されてた―――。  べつに特に不満も無かったし、何もなく、平和に過ごせてたと思う。  ・・・かと言って、淀みなく「良かった」という感想も出て来ないけど。  今だって何も変わっていない。  この猥雑な世界でどうしたらいいか分からなくて踊り子を続けている。  ほんとうはあんな気持ち悪い男たちの中で、こんな恰好をして踊りたくなんかない。  帰りたいと思うほど恋しい世界ではないけれども今の『アイーダ』よりは性に合った世界だった。
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