第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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(佐藤くんは、どうしているんだろう・・・?)  覚えている中を手探りしていて、いつも思い出す同僚の名前。  特別親しかったワケじゃないけど、挨拶を交わす程度で時折仕事を手伝ってくれたり、いい人だった。  ルトと少し似ているかもしれない・・・。  どうして全然知らない異次元の別世界にいるのだろうか? 『シェラカンド』なんて国名、聞いた事もない。  小さい頃読んだ、アラビアン・ナイトの絵本。  エキゾチックで幻想的な雰囲気の世界観、きらきらとした宝石の生る樹、ランプの魔神、空飛ぶ絨毯に夢中になった。  図書館で訳本を見かけて懐かしくなり、借りて読んだけれど結構ショックだった・・・。  子供の頃の憧れを壊してしまった、真実の物語。  その物語を現実にしてしまったかのような、今自分のいるこの世界。  あんな気持ちの悪い男たちにふしだらな女たち。  OLだった頃も、そういう事には関心が無かったし、持たないようにしていた。  だって一生縁の無い事だもの。  どんなに外見が美しく変わっても、別の世界で生きていても、中身は『鈴木 みつ子』のまま。  鈴木 みつ子とアイーダ。  ふたつの人格が歪に繋がった、地続きのような曖昧な精神世界の境目。  これは悪い夢だ―――。  きっと永いだけ、そう自分に言い聞かせてふたたび寝台に、答えが見つからないぎゅうぎゅうな頭と舞踏で疲れた身体を沈ませた。
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