第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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「なんだね?今は妻の相手で忙しいんだ。望みなら後でな、アイーダ」  頭が真っ白になり立ちつくすアイーダに対し、情事を他人に見られたにも関わらず貴族は騎乗する妻の肌を掌で撫で回し、また妻もアイーダの存在など気にも留めず、腰を揺さぶっている。 「いっいえっ!!失礼致しました!!」  米搗きバッタの如く謝罪をし、喘ぎ声の響く部屋から脱兎の如く飛び出した。 「もう~、だから言ったでしょアイーダ!」  元来た通路を戻り、白い壁石の廊下で話す。 「だッ・・・だって、ジャスミン、さっきあの部屋から出てっ!あ・・・、あなたと・・・っ、一夜、明かしたんでしょっ?!!」  言葉にするのも恥ずかしい!!  対照的にジャスミンは世間話のように喋り出した。 「アァン、ひと晩ずーっとヤッてたけど明け方奥様が来て代わってって言うから!なんか~、カービド様がここに来てる間ァ、召使やら友人やらとヤッて寂しさ紛らわしてて、やっぱ夫のがイイッて押しかけてきたみたいヨ」  一座の踊り子として各地で公演を行ってきたが、どの国どの町でもこんな有様だった。  一夫多妻制どころか男女共に妾、情夫が何十人いても、騒ぎ立てる者はひとりもいない。  ルンマーンのような旅芸人一座の踊り子と淫乱な関係に落ちるのも常。  一国の主でも王族でも貴族でも庶民でも奴隷でも、肉欲の前では皆同じだった。 (信じらんない!!そりゃ、不倫状態のジャスミンだって悪いけれど、カービド様もカービド様だわ。奥様だって自分も不倫していて、押しかけてきてそんな順番代わってだなんて)  この世界でゼロから育った記憶があれば、それがふつうだと何の疑いも持たず受け入れられていただろう。  アイーダの中の土台となっている鈴木 みつ子の記憶が、彼女自身をこの世界で生き辛くしていた。
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