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「あれ、でも、そういえばさサリム様ってもう帰ったんでしょ?」
「そうそう、取引の交渉に失敗して!元気なだけが取り柄のへったくそは、仕事もペケよね~!!」
「一週間以内にケリ着ける~とか息巻いてたけどさっ、一週間過ぎても全然話が纏まんなくて2日3日と滞在延長。宿泊の超過料金かかってこのまんまじゃ家がやばいってんで取引を途中でヤメたんだってよー」
「ヘサーム王にあったら年寄のお偉いサンも形無しね」
「あと、ダール様とドハ様も!他にも交渉失敗したっていうのがうじゃうじゃ」
「男は博打が好きだからね~!!シェラカンド(ここ)に来るだけで超!金かかるってゆーのにさー、ある程度妥協しろっての!」
「うまく行けば大金うはうは、ヘタすりゃ文無し!」
「一週間は滞在費無料(タダ)なんだから、欲かかなきゃいいのよ。ほんっとヘタな男ってバカ!!」
交渉の為、シェラカンドには毎日入れ替わり立ち代わり多くの客が出入りする。
年間逗留になった踊り子たちは、夜の営みの最中うっかり口を滑らせる男たちから、たくさんの情報を得ていた。
「じゃあヘサーム王は絶対に上手よね。この都が繁栄してんのもヘサーム王の政の手腕があってこそだものね!」
「あーん!一度でいいからヘサーム王に抱かれたい~!!」
「あのシルク布から覗く鮮紅色の瞳と青紫色の美しい瞳!!あの眼差しに射抜かれたい!!」
「きっと大きいわよね!!」
乙女の恋バナよろしくなノリとお決まりの話題で会話が弾んでいく。
(聞こえない聞こえない、わたしには関係ない)
そう念じながらアイーダはもぐもぐと天人花の実を齧るが、これも味が全然分からない。
「ねぇねぇん、アイーダはルトとヘサーム王、どっちに新鉢を割ってもらうのぉ?」
とんでもない話題を振られ、ブーッと咀嚼していた天人花の実を吹き出した。
「きったないわねェ!!何そんな事で吹き出してんのよォッ!」
隣のジャスミンがキンキンした声を上げる。
床に手をつき屈んでげほげほと咳き込む。
咽けりながら渡された水を受け取った。
(そんな事、じゃないわよっ)
「どっちにするの~?」
顔を上げればいつの間にか踊り子に楽師、座長までもがニヤニヤしながら一斉にアイーダを見つめている。
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