第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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 蒼と白の石が嵌め込まれた床には金糸の豪奢なつくりの絨毯が敷かれ、その上には豪華な料理が食卓に盛られている。  牛豚鶏羊と様々な肉料理に魚介料理。西瓜、メロン、林檎、桃などの多くの水菓子と古い葡萄酒。  薔薇、アネモネ、天人花、菫が香りを添える。  砂漠の真ん中では到底お目にかかれない山海の珍味が並べられ、そのどれもがシェラカンド産だった。  客たちは絨毯の敷かれた床に腰を下ろして寛ぎ、皆、酒池肉林に浮世の憂さを忘れていた。  美味佳肴に酔いしれ、夢心地で饒舌になる。 「実に実に!!この葡萄酒も極上極上!!我が殿にも是非味あわせたい・・・」  公賓のひとりが呟くや否やシェラカンドの大臣(ワジル)・ファティが透かさず手土産を差し出した。 「バール様、こちらをお持ちくださいませ。我が国で醸造した葡萄酒にございます。年代は今お召し上がりの品よりも幾分新しくはございますが、こちらも格別です」 「おおッ!!これは忝い!!我が殿もさぞお喜びになりますわい!!」 「ああ大臣殿!!私にも一本持たせてくれまいか?」 「ワシにもくれぬか!!」 「わたしにも!!」  口火を切ったように客人たちは我も我もと群がった。  手慣れた様子でファティと共に召使たちが客人たちを捌いていく。 「いやぁ~、ヘサーム王はまっこと出来たお人よのぅ~。予定とは違うが乾し果物も輸入(しゅにゅう)しようかのぅ~」 「これでは取引条件を呑まぬ訳にはいかんですなぁ!!」 「このような過分な持て成し、是非とも我が君主をお連れせねば」  懐柔された客人を尻目に宴の主催者であるヘサーム王は愛鳥の鷹を肩に乗せ、専用の寝椅子で寛いでいた。  時折ファティや召使いたちが入れ替わり立ち替わり、ヘサーム王に何やら耳打ちをしている。 「はッ!たかだか酒と料理と手土産で言いなりになるとは」 「あいつ等には自国の誇りが無いのか!!あんな青二才に手玉に取られおって!!」  浮かれる客人を揶揄するこの二人も勅命により、本日シェラカンドに入国した者たちだ。 「なんだと!!もう一度言ってみろ、影でコソコソと腰抜け目!!」 「喉元さえ潤えば何でも要求を呑むキサマらこそ腰抜けではないか!!」  二人組の言葉を耳に挟んだ要人のひとりが声を荒げる。  酒も手伝い、立ち上がった二人組と要人が一触即発状態に陥った。  しかし、ヘサーム王は意にも介さない。 「まぁまぁ御三方とも御心をお静めください。客人を持て成すのは王宮としてごく当たり前の事。勿論我が主の思いが通じ、我が国との取引に応じて頂ければ尚更喜ばしい事です。心からお愉しみ頂ければ主も幸いでしょう」  ファティが興奮する三人を宥めるが、こんな事は日常茶飯事である。  彼にとっては朝起きて顔を洗うよりも容易かった。  上手く丸め込まれた二人組と要人は渋々元の位置に腰を下ろした。 「まだまだ、お愉しみはこれからですよ」  ファティは最後の一押しを二人組に耳打ちした  この程度では傾かぬ要人がいるのも事実。  だが、ヘサーム王にはまだ奥の手があった。  大広間の壁沿いに控えていた召使たちがひとつひとつ飾り燭台と洋燈(ランプ)の明かりを消していく。  とうとう大広間の明かりは、客席から離れた向かいの壁数本の洋燈(ランプ)とアーチ状の柱の間から差し込む月明かりのみとなった。  辺りは薄闇に包まれ、目を凝らさぬと客人たちの座るところから先は見えないほどだ。 「何をしようと言うんだ」 「暗がりに乗じて邪魔者を抹殺しようとでも言うのか?笑止!その手には乗らんぞ!!」  二人組は敵意剥き出しで佩刀(はいとう)に手を掛けた。  そんな二人の期待を裏切る様に横笛(フルート)の音が仄暗い空間に響き渡る。  横笛(フルート)の音を皮切りに撥弦(ウード)、タンバリン、竪琴、銀笛(フラジオレット)、数種の楽器の音が重なり異国情緒溢れる旋律を奏で始めた。
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