第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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 すると奥の暗闇の中から幾つもの橙の灯りが列を成して現れる。  その正体は艶やかな衣装に身を包み、念入りに化粧した数十人の女たちだった。  女たちは召使が消した燭台や洋燈(ランプ)の幾つかに、滑らかな手付きで再び火を灯していく。  大広間がぼうっと仄暗い橙の光に染まり、女たちは自らの姿を怪しく浮かび上がらせる。  そして一処に集まると一斉に踊り始めた。  オオッと客人たちから感嘆の声が沸く。  踊り子たちは持ち手から伸びる鎖の先に(シルク)が付いている振り子状の小道具・乱舞布を回し一糸乱れぬ見事な群舞で客人たちを魅了した。 「これはこれは実に美しい!!」 「舞も美しいが、皆美形ぞろいですなぁ~」  既に懐柔された要人たちはこれによって更に王の手に掌握されてしまった。 「食欲の次は色欲か、ハッ」 「三大欲もここまで来ると見下げ果てたものだな」  二人組は未だヘサーム王の手練手管に落とされまいと忠誠心を己に課していた。  しかし、それもここまで―――。  旋律が変化し、踊り子の群れが二つに割れる。  その奥から一際美しい容姿の踊り子が舞出でる。  その踊り子の美しさたるや夜空に輝く月の如し、大地を照らす真昼の太陽の如し。  群舞の踊り子たちも見事だったが、この舞姫とは月と鼈であった。 「・・・美しい」  先ほどまで多数の踊り子を物色していた要人たちも、この踊り子の美しさに一瞬で心を奪われてしまった。  両手に持った乱舞布を激しく回す。  円を描きながら宙を乱舞する様は燃え盛る炎の其れに同じ。  時に荒々しく、時に揺らぎ。  踊り子は自らの身体の一部であるかの様に自在に操る。  その周りを讃えるように群舞が囲む。  中心で妖艶に舞う踊り子は時に布の炎を、そのしなやかなカラダに纏わせ、悩ましい表情を見せる。  現世(うつしよ)のモノとは思えない儚さと危うさを湛え彼女そのものが悠久の時空に揺らぐ炎の様であった。 「何度見ても宵の翠玉は美しいのぉ!!」 「まさに宝玉じゃわい!!」 「!あれが、くだんの踊り子」 「なんという美しさか」  あれだけ肩肘を張っていた二人組もこの「宵の翠玉」には骨抜きにされてしまった。  それを一瞥しヘサーム王は静かに口端を上げていた。
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