#2 まずはひとつずつ確実に

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#2 まずはひとつずつ確実に

「春輝さん!!」 俺は二年生の教室前で見かけた派手な男に後ろから声を掛けた、すると彼はこちらを振り向いてにっこりと笑う。 「コーヤンだっけ?はよ〜身体大丈夫ー?」 本当はまだ死ぬほど痛いが、興奮冷めやらず 寝られなかったため早めに登校して春輝さんが来るのを廊下で待っていたのだ。 上級生の廊下に行くのは、本当に勇気がいるが… どうしても…春輝さんにお願いがあった。 「自分、打たれ強いんで…身体はもう平気です。」 そう言って、春輝さんに近づき、頭を下げながら 本題に入る前に 「春輝さん!昨日は本当にありがとうございました!」 改めてお礼を言う。 「いーって、気にしないで」と言った春輝さんの言葉を遮るよう立て続けに思いをぶつけ、 「春輝さん、俺お願いがあります!!」 と言った瞬間「無理」と言われた。 「えっ…まだ何も言ってないじゃないですか!」 即座に話を切られて慌てていると、ホームルームの予鈴が鳴った。 「てか、保健室行って、今日は早退。」 ずいっと俺に近づいて春輝さんは頭をポンッとする。 この見た目もあっての事か、二年生の視線や騒めきが聞こえる。 「なになに、あの1年どうしたの?」「なんか可愛い〜」「怪我してない?」なんて聞こえ急に恥ずかしくなってくる。 「また今度話聞くよ」 「スッ」 春輝さんに促され、ホームルーム後に行った保健室では病院に行くべきだと言われたが、それだけは避けたかった。 家族にも心配をかけるだろう。 喧嘩したことは黙っていた。 1時間目から保健室のベッドに横たわり療養することになるなんてな。 寝れていなかった事もあり、深い眠りへと落ちていった。 … 「コーヤン?…コーヤン!」 可愛らしい声が聞こえてきた。 なんだか昨日も聞いたような気がする。 「ん?…輝田か?」 目を開けると、そこには輝田の姿があった。 「よかった、何回か見に来たんだけど…なかなか起きなくて」 「ん?今何時だ?」 なかなか起きないという言葉に不安が起きる。 「もう昼休みなんだよね…13時近く」 思わず飛び起きて体に痛みが走る。 寝過ぎた。 まさか午前中の授業をずっと寝て過ごすことになるなんて。 「やべぇ、行かないと」 とベッドから降りようとすると、 ガラガラッと保健室の扉が開く音がした、 スタスタとこちらに近づいてくる。 「起きたー?」 そこには今から会いにいこうとしていた人物、 春輝さんがいる… と、もう1人…長めの黒髪をサラッと手で避ける気品のある女性が横にいる。 春輝さんの連れなんだろうか… 「こんにちは」 にっこりと笑う彼女もまた、 春輝さんのように読めない印象で綺麗なのに怖さがあった。 「こ、こんにちは…」 輝田は彼女と知り合いなのか、目を輝かせ「京極先輩!こんにちは!」と元気よく挨拶していた。 「はい、お見舞いね〜」と春輝さんは購買でいろいろ買ってきてくれて、 お菓子までもがたくさん入っている。 「こんなに貰えませんよ!」 「じゃあ、クラスメイトにあげていーよ、莉桜ちゃんが欲しいのあれば持っていっていいし」 手を振りながら春輝さんはニコニコとしていた。 確かにお腹が空いたし、もらっておくか… 本当に、 優しい人なんだよなぁ… 「それから、ゆかりにちょっと診てもらって」 ゆかりと呼ばれた女性が俺に近づく。 「ふふ、怖がらないでくださいね…ワタクシ3年A組の京極ゆかりと申します、医師の娘なので…少し痛むところを診て良いでしょうか?」 と言われて上級生と知り緊張したが、 痛むところを一通り見せてみる。 「そこまで酷くなってませんが、早く治したいのなら2、3日は安静にしたほうが良いと思いますよ」 ちらりと俺をみる。 輝田も心配そうな顔で俺を見ていた、 なんだか申し訳ない。 「でも俺、どうしても春輝さんに見て欲しいんです」 布団をギュッと掴んでもう一度頭を下げる。 「春輝さん!俺に戦い方を教えてください!」 その声に京極先輩は「ふふ」と笑みを浮かべる。 輝田は春輝さんを見上げ、返答を気にしているようだ。 「無理でしょ…」 今朝と同じ答えだった。 「今は2、3日休まなきゃいけないかもしれないんですが…復活したら特訓に付き合って欲しいんです!お願いします!!」 たとえ答えが同じでも、ぶつかるしかない。 確かにこんな弱い俺が図々しい話なんだろう… でもどうしても引き下がりたくなった。 忘れられない… 昨日のことが俺に火をつけてしまったんだ。 絶対折れたくなかった。 諦めたくなかった。 「はぁ」と深いため息が聞こえてくる。 春輝さんは、うーんと悩んで「2、3日後に返事する」と言ってくれた。 断られたわけじゃない。 俺は、やっと新しい一歩を踏み出せるかもしれない。 まだ了承を得られていないが「ありがとうございます!」と深々頭を下げた。 … コーヤンが前に進もうとしている。 私は空を見て「あーあ」なんて情けない声が出た。 だって私自身何も出来てないんだもの。 そんなことを思いながら放課後は花壇前のベンチに腰をかけていた。 保健室で頭を下げるコーヤンの姿… 私にはカッコよく見えていた。 前に進みたいって気持ちが伝わってくるから。 桜の味のキャンディーを眺めていた。 「春輝先輩凄かったなぁ…」 ふと昨日のことを思い出す。 怖くて仕方なかったのに、春輝先輩が現れた時の不思議な安心感。 みんなは気付いてなかったと思うけど、 上着を借りた時に「すぐ終わるから」と声をかけて私に飴を差し出してくれた。 一瞬のことなのに脳裏に焼き付いて離れない。 本当にすぐ終わってしまったし、 高校受験失敗したなって思っていたはずが、 悪くないかもなんて思っちゃう。 「何してんのー?」 私は幻聴が聞こえたのかと、耳を疑った。 「は、春輝先輩!?」 まさか、自分に声かけてくれるとは思っていなかったからか思わずベンチから立ち上がる。 「何、俺化け物じゃないんだから、普通にベンチ座ってなよ」 穏やかに笑いながら冗談を言う春輝先輩は、 やっぱり不思議な安心感をくれる。 そっとベンチに座り直すと、春輝先輩が横に座ってくるのでドキドキとしてしまい飴を握ってしまう。 それに気付いたのか、私を見るや 「まだそれ食べてないの?」 と首を傾げてきた。 「あはは、なんか勿体なくて」 目を合わせるのすら先輩なのに緊張してしまった。 私がカッコ悪いから、どうしようもないから、 そういう事から目を背けたいのかもしれない。 すると、トントンッと肩を叩かれる。 「?」 私が振り向くと、もう一つ飴を差し出してくる。 「じゃあ、もう一つあげるよ」 どうしても食べて欲しいのかな…「ありがとうございます」と言ってもらった飴を舐め始め私は口を開いた。 「私もきっとコーヤンと同じ気持ちなんです」 ちょっと俯き気味だったが話してみることにした。 「春輝さんがいなかったら、私達どうなっていたのかわからないんです…」 春輝さんは黙って私の言葉を聞いてくれていた。 「だから、本当に感謝しているし…強くならなきゃって思っちゃうんです…私なんて女だし役には立てないかもしれないんですけど」 言いたくなかった事を口にしてみると、 胸が苦しくなるのを感じた。 見えないんだ、私は自分がどうしたらいいのかわからない。 すると、ポンっと頭に春輝さんが手を置く。 撫でるとかではなく諭すような… 「女の子は、いいんだよそれで…莉桜ちゃんの気持ちがあるだけで、コーヤン何度だって立ち上がったんじゃない?だから強くなろうなんてしなくていーよ…でもさ…」 春輝さんは、ベンチから徐に立ち上がり、目の前の花壇にある枯れた花を撫でて少し間を開けてから、私を見て話し出した。 「莉桜ちゃんが望むなら自分の身を自分で守るくらいにはなった方が俺はいいと思ってるよ。」 なんだか切ない表情だったが、 私は嬉しくて立ち上がってしまう。 「私にも稽古をつけてくれるんですか?」 つい、コーヤンに感化されてしまったのか、 図々しいことを言ってしまう。 「コーヤンには、どう答えようか迷ってるし…莉桜ちゃんが強くなりたいとするなら俺じゃなくて違う人に見てもらうべきだと思う」 そう言って目を逸らされてしまった。 ここで春輝さんにお願いするのは、あまりにも酷だろう…2人も面倒を見るなんて先輩に失礼なのかもしれない。 「春輝先輩がいいな…」なんて本音がつい漏れてしまって春輝先輩はびっくりしたのか、私に目を向けてきたので「あ!つい!」なんて顔を赤くしてしまった。 すぐ本音が出ちゃうんだから、恥ずかしい… 「あはは、いーよ、そういうの嫌いじゃない」 春輝先輩が笑ってくれたので、 私もつい、つられて笑ってしまった。 「3日後には、答え出すから待っててね」 そう言って春輝先輩は 1週間ほど姿を見せずにいた。 2年生の知り合いに春輝先輩の姿を見たか聞いてみると授業にはたまに出ていたようだ。 コーヤンとも私が春輝先輩と会話したことを話し合ったし。 まさか嫌になって学校に来なくなるなんてことは無いはず… 不安と悲しさで、毎日姿を探してしまう。 待ち伏せをしても会えないので本当に避けられてしまったんだろうか。 図書委員会で京極先輩に会ったので行方を聞いたが知らない様子だった。 「俺のせいですかね…」 とコーヤンは悲しそうな声を出した。 それは私も同じ気持ちだったので、 「私だと思う」なんて、言ってしまい、 2人して深いため息が漏れた。 花壇横の雑草を2人で眺めていたが、 不意に抜いてみる。 ストレス発散というかは、モヤモヤする気持ちをどうやって消化するか悩んでいた。 雑草抜き、意外とハマりそうで怖い。 その瞬間、コーヤンが「うわっ」と大きな声を出す。 それにビックリして、私はコーヤンを見る。 するとそこには… 「春輝先輩!!」 ずっと探していた人の姿があったのだ。 嬉しくて蹲み込んでいたが、立ち上がってしまう。 コーヤンは、春輝先輩に無理矢理後ろから頭を左右から手で挟まれ、無理矢理、天を向くようにされていて身動きがとれなそうだった。 春輝先輩はコーヤンの驚く顔を覗きながら満足そうに笑っていた。 「お待たせ、じゃあ始めよっか」 そう聞いた瞬間にコーヤンが春輝先輩に向き直って土下座をする。 「よろしくお願いします!!!」といままでにない大きな声が響いた。 「春輝先輩、どこに行っていたんですか?」 私が不満もあったが、不思議そうに先輩へと聞くと 「絵を描いてたんだよね〜♬」 とにっこり笑って手を見せてくる。 よく見ればスプレーやペンキの後がついたままだ。 でもきっとそれだけじゃないんだろうと見ていて 気付いてしまった。 ふと、それに紛れた擦り傷を見つけたからだ。 それがどんな意味をもっているのか検討もつかなかったが悪いことじゃないと思う。 春輝先輩だから。 「ついてきて」そう言って春輝先輩が歩き出す。 放課後、ずっと先輩を待っていたから 私達は特に予定もなかったので後ろから付いて歩き出した。 すると、商店街を抜けていくところで足取りがどこに向かってるのか気付いた。 そう、私達が怖い思いをした場所… 看板を見ると中途半端なまま工事が中止になっていたので、 確かに何かするには丁度良さそうだった。 「明日からここで特訓するからコーヤン放課後数日よろしくね」 と言ってコーヤンと春輝先輩は連絡先を交換していた。 「私は…」と言いかけたときに、 先手で春輝さんは被せたように言ってきた。 「ごめんね、莉桜ちゃんは出来ない」 そう言った後何かを春輝先輩は言おうとした、 言おうとしたのに悔しくて私は涙が止まらなくなって走り出していた。 馬鹿だなぁ。 何を期待してしまったんだろう。 「輝田!!!」と背中からコーヤンの声が聞こえてきたが、全く振り向け無かった。 聞きたく無かったんだ… 私… なんて強欲なんだろう。 変な罪悪感で、ただただ、家に向かって走ることしかできなかった。 … 「春輝さん…」 コーヤンに恐る恐る声をかけられる。 「ごめんね〜」なんて笑いながらコーヤンに声を掛けてみるが、心配したような顔で見つめるもんだから仕方なく口を開いた。 「俺が莉桜ちゃんに手合わせできると思う?男ならわかるよね〜」 俺の言葉を聞いて、コーヤンはハッとしている。 莉桜ちゃんは気持ちの強い子だから、 誰にでも馴染もうとするせいで 女だって認識からちょっと外れやすいんだと思った。 だから、変なやつに興味を持たれたのもわかる。 悪く言えば懐きやすいし隙がある。 「まぁ、突き放すのは可哀想だけど、わかってもらわなきゃ困るからさぁ…」 「そうっすよね…」 何故かコーヤンが罪悪感あるような顔をするので、俺が悪いみたいな雰囲気が嫌だった。 思いっきり、コーヤンの背中を叩くと「イタ!」っと前によろける。 軸も全然なってないなぁ〜なんて、コーヤンの足元を見ていた。 「取り敢えず、明日なんだけど放課後開いてたら初めようか」 と言うとコーヤンは嬉しそうに「はい!」と言った。 やっぱり嫌いじゃないなぁなんて思う。 助けた理由もたくさんあったが、 コーヤンは人に優しすぎる。 だから意識が自分を守るじゃなくて、 人を守りたいが優先してブレがあった。 いろいろ教えてあげなきゃいけないのかもしれないけど、自分で気づいてくれなきゃ見込みがない。 明日から様子を見ていこうかな。 はじめて誰かに何かを教える気がした。 俺は双子でも弟だから教わって生きてきてばっかだったし… 新しい気持ちにワクワクしていた。 コーヤンだからなんだろうな。 期待を膨らませながら、 明日への特訓に思いを馳せた。 END ……… 皆さん、こんにちはーーー!!! 神条めばるです!!! さてさて、追加の続きストーリーがやってまいりました! ここは、結構ポイントになる分かれ道。 莉桜とコーヤンはそれぞれ別々に、 また春輝と関わることになります!!! 本編にも出てきていますが、 男女の分かれ道といった部分でしょうか。 コーヤンはコーヤンの。 莉桜には莉桜の。 春輝なりに2人のことを考えて、 冷たくしたりすることもあります。 春輝って、意地悪そうに話す時もあれば 割と真面目に言う時もあるし。 相手によっては、喧嘩腰とか… でも偽ってばっかり上辺上に生きるばかりじゃ駄目だって思うところもあるので、 ずっとニコニコはしてないです。 嫌な空気とか感じるとすぐ裁断します。 それは気分屋でもあるけど、 嘘とかあんまりつきたくないし、 虐めとかも好きじゃない。 冗談も言っていい時と悪いことがある。 春輝ってちょっと変だなって周りは 感じるかもですけど、 ヒーローぶっちゃう時あるんで、 女の子泣かせたりも平気であるんですねーーー というか、基本的に泣かせるタイプでは? 全部が優しいだけじゃ 相手のこと何もしれないし、 ちゃんと見てあげたいって言う気持ちなんですよね。 …って、実はこれ私(作者)がよくやっちゃうんですよねーーー 親しき中にも礼儀あり! この言葉凄い好きなんです。 言葉は難しいから、 喧嘩よりも難しいから、 春輝は、何が優しさで何が人を傷つけるのか…それをずっと考えています。 さてさて!! 話が逸れたんだけどねーーー 莉桜ちゃん、、、このあとどうなるのかな? コーヤンの修行はどうなるんだ!?!? って言う2人の話の続きも、 ちゃんと書く予定があります! 暫く先になりますが、 成長するためには必要な分岐だと思うので、 楽しみにしていてくださいませ。 ではまた。
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