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「今日から一緒に暮らす家族が増えるぞぉ。仲良くしろよ?」
父さんが連れてきた『彼』は雨に濡れて服が肌にはりつき髪もビショビショで髪先から雫をボタボタたらして、寒さで少し震えた小さな声でオドオドと僕と兄さんを見て挨拶をしたのだった。
その声の小ささは耳の良い獣人の僕でさえ聞きとるのがやっとで、体格のいい父さんの横に並ぶと体の細さが強調されてしまう。
体型は僕と同じくらいで手足が長く、身長も高いのに表情が乏しくて目立つ特徴がない平凡な顔立ち、しいて言えば獣耳がないのが珍しいくらいだ。
彼は住む家がなくて行き場も決めず雨の中をフラフラしていたところを父さんに出会ったんだとか…いや、捕獲したのか?
父さんは弱々しく1人では生きてけないタイプに弱い。母は病弱で庇護欲をそそられて結婚したと僕は思っている。その母も僕が小さいときに亡くなってるし、今は父さんと兄さんとの3人暮らしだから1人増えたところで問題もない。
とりあえず彼が来た次の日にこの家で暮らすのに困らないように家周辺の案内をしようと彼に帽子をかぶらせて歩いていたんだけれど…
「ねぇねぇ~。俺たちと楽しいところいかない?」
と双子のようなワニの獣人2人と体格のよいキメラ種1人のガラの悪い3人に囲まれてしまい、ワニの獣人は獣性が濃く鋭いキバと縦長の瞳孔の瞳で獲物を見るように僕と彼を見ている。
失敗した…兄さんを連れて来るべきだった。
家の近くにバカでも金さえ払えば入れる獣人学校があるせいで、こうゆう連中に遭遇することも多い
僕だけで3人を相手にするのは不利で、逃げるにはワニの獣人の腕力が強すぎるし、それに今日は彼という荷物もあるのだ。
「なぁ、こいつ獣性が低いのか?耳もないし肌はスベスベ!」
と言ったキメラ種の男はニヤニヤしながら彼の帽子を取り上げ、服の裾から手を入れて肌を撫でまわしてるようだ。
その体はガタガタ震えていて顔色は悪く可哀想だが僕は双子のワニ獣人に押さえつけられていて助けてあげられる余裕など無い。
僕のズボンにもワニの手が入ってきて、もうダメだと思って目をつぶったら
何かがぶつかる衝撃音と重たいものが地面に落ちる音がして僕を後ろから押さえてた腕の締めつけが無くなっていた。
「何しやがるッ!」と残ったワニの獣人1人が言えば
「あ"ぁ"?それはコッチのセリフだろうがァッ!!」
と怒声のような低音の声が言葉がかぶる勢いで言い放った。
!!!……どうゆうこと?
先ほどまでガタガタ震えていた彼が表情も険しく立っているワニ獣人を睨みつけ、僕の足元には双子の片割れのワニの獣人とキメラの獣人が折り重なって倒れている。
ワニの獣人よりもキメラの獣人の方が腕力があるのに彼はそれを振りほどいて投げ飛ばしたとでもいうのかー-…
そんなことを考えているうちに彼は残りのワニの獣人も膝蹴りで倒してしまったのだった。
その後も無抵抗な3人に攻撃を加えようとする彼を止めようとした僕を見て…というか僕の耳と尻尾を目をすがめて見られて体がゾクリとした。
……散々だ。
せっかくワニの獣人たちから逃げられたと思ったのに助けてくれた人間に襲われるだなんて!
外の樹木が生い茂る人気の無い場所に連れこみ、僕の胸の小さな粒を美味しそうに舐めたり吸ったりして僕が4つ足の獣の姿で逃げようとすれば
彼は驚いた表情をして「獣姦は、はじめてだ。」とか言って口元を楽し気に歪めて、そのまま獣になった僕を捕まえると覆いかぶさってってもそのまま犯した変態である。
ありえない獣姦する人間だなんて!!
人の姿をした獣でした。
しかも人間のあたえる未知の刺激に最後は気持ちよく感じて絶頂してしまうだなんて…僕もう雄としてはダメかもしれない。
「俺が起きてるときは相手しろよ?チソン」
と僕から無理やり聞き出した名前で呼ぶのだった。
……俺が起きてるとき…?
この意味が分かるのに3日もかからなかった。
『彼』のなかには別人がいる。
声のトーンや言葉遣いが変わり、仕草や好きな食べ物などもまるで違うのだった。
彼が『僕』と言ってるときは料理と洗濯などの家事ができるオドオドした弱い青年で。
彼が『私』と言ってるときは兄さん大好きな、この世界では見たことのない珍しく美味しいお菓子を作り、女の子の服などを好む《彼女》
(男扱いすると大変だった。)
そして彼が『俺』と言ってるときは僕を下僕あつかいする、ケンカや暴力が趣味の俺様なケダモノ男でもちろん家事などはできない!
スイッチがどこで変わるのかは分からないが寝て起きると入れ替わってる事もある。
不安で眠れないからと言って父さんと一緒に寝ていた青年が翌朝は彼女になっていて悲鳴をあげて父さんの頬を叩いたあと兄さんをストーカーしていたり…
兄さんのベッドに勝手に潜りこんだ彼女が翌朝、兄さんを殴ろうとしていたり…
(兄さんの反射神経だから避けれてると思う)
寝起きの悪い兄さんが朝に強くなり、あのモテる兄が『人間』の青年に振り回されてる。
僕は《彼女》であってもオドオド青年でも被害はなく俺様な彼になってる場合だけ僕はそのまま押し倒されて彼の相手をさせられるのだった。
父さんも兄さんも風呂から上がりの《彼女》に会わないように気をつける日々である。
こうして僕の家は『彼』が来てからすこし賑やかである。
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