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暁雨
スウェイは鉱床探索車を運転して、夜明け前の採掘地帯へ向かった。
暗闇に閉ざされた原野がどこまでも広がっていた。
坑道の目印の尖塔が黒いシルエットが何本も見えてきた。
鉱床探索車のコンテナ室が開き、移動式人工降雨機のキャタピラが回りだした。
やがて、平坦な地平線上に太陽が白い光点となってぽつんと浮かび上がった。衛星オディエルナの空が深緑色に染まっていく。
鉱床採掘地帯にも穏やかな光が差し込む時間帯だった。
朝焼は長く続かなかった。
漆黒の乱雲が薄明るい空を覆いはじめると同時に、大粒の激しい雨が瀑布のように落ちてきた。凄まじい水煙が視界を閉ざし、雨音は地響きをたて、雷鳴が轟いた。
オディエルナは地表の起伏が少ない代わりに、洞のような穴が天を向いている。
雨は容赦なく坑道へ勢いよく流れこんだ。
大気中の二酸化硫黄、ベンゼン、水銀が溶け込んだ黒い雨水である。
坑道に排水設備はあるが長雨に対応した構造にはなってない。処理しきれない雨水は坑道をどんどん侵食していき、やがて鉱脈を水没させるはずだった。
これではサイボーグたちは採掘業務ができない。
スウェイはやまない雨が降り続くことを望んだ。
「やったわね」セネア・ガーネットが背後に立っていた。「ジャンスセンから連絡があったのよ。スウェイが妙な考えに取り憑かれてるって」
「それで?」
スウェイは暗い笑いを浮かべた。
「あなたの行動をずっと監視してた」
「逮捕するかね」
「この星の最高責任者は私です。最高責任者には居住者を守る義務があるのをご存じ? イース・ノース中佐は業績を優先したので、更迭申請をします」
セネア・ガーネットは空を見上げた。
スウェイは少しだけ愉快になった。
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