ベンゼンの雨

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 サイボーグ囚人たちは黙々と作業を続けた。スウェイの主な任務は、彼らに指示を出し、管理することだった。  夕刻の終業間際になって、運転台のトーキーが鳴った。 <こちらは経営部管理棟。応答せよ>  管理棟長のセネア・ガーネットの感情を押し殺した声が響いた。 「はい、スウェイです」  スウェイはコンテナバケットの操作パネルを叩きながら耳だけを傾ける。 <直ちに撤収し、緊急隔離棟で服役囚の機能休業を> 「え。理由はなんですか」 <ハイパーウイルスⅢが持ち込まれた。すでに管理棟内に感染者が出てパニック状態になっている> 「ハイパーウイルス・・・今、地球で流行(おおはやり)してるAI感染症? 誰が持ち込んだんです?」 <地球の視察団よ。団長のイース・ノース中佐があんたに面会を求めてるわ> 「あの野郎・・・」  スウェイは歯ぎしりした。怒りの感情が湧いたが、脳内チップが血液中に鎮静ホルモン分泌の命令を出すと、首筋のあたりが急に冷たくなって怒りが収まってしまった。彼もまたサイボーグだった。    
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