鉱区稼働優先指示

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鉱区稼働優先指示

 ドーム型の経営部管理棟。  玄関先に使節団専用のシャトルバスが停車していた。  普段ならで賑やかなエントランスホールが静まり返っている。速やかに来訪者専用の区画へ案内されたか、検疫所へ隔離されたかのどちらかだった。  レセプションカウンターの明かりも消え、広い通路を行きかう管理官や看守ロボットもいなかった。  エレベーターホールの操作パネルが暗赤色の微光を放っているだけである。  エレベーターが停止しているので、スウェイは併設のらせん階段を昇っていった。管理棟長室は三階の通路の奥まった場所にある。  厚さ百センチの防御ドアの前に立ち、暗証コードを入力した。  防御ドアが唸りながらゆっくりとひらいた。  パールピンク・ショートヘアの女が、衛星オディエルナの原野を一望できる窓のそばで操作パネルテーブルのキーボードをたたいていた。 「感染者は破砕処分して溶解、非感染者は鉱区変更して稼働再開してください」  セネア・ガーネットはパールピンクの髪をかきあげながら感情のない声で言った。黒い眸が死んだサイボーグのように冷たかった。  スウェイは耳を疑った。受刑者は確かに極悪非道の前歴者であり、サイボーグ改造されてはいるが元々は生身の人間である。それを・・・ 「破砕処分、溶解・・・まるで金属のスクラップ扱いだ。状況はそこまでひどいと?」 「ハイパーウイルスⅢの飛沫電子クラスター感染が致命的なのよ。一瞬でサイボーグが動作不良を起こす。すでに5人を処分し、18人を隔離している。18人の処分をあなたにお願いします」  セネア・ガーネットの声はあいかわらず冷たかった。 「視察団の連中はどこにいるんです? イース・ノース中佐は?」  スウェイはむっとした口調でたずねた。 「となりのVIPルームにいるわ。感染予防のため、できるだけ離れた方がいいのよ。私たちも半分は機械だから」  セネア・ガーネットはかすかに皮肉っぽい笑みを浮かべた。 「イース・ノース中佐は人間だ。あの野郎には感染(うつ)らないでしょう。むしろ、ベンゼンをあの傲慢な口に流しこんでやりたい」 「中佐があなたを陥れたことは知っています。だけど、ここでのいがみ合いはやめてください。あなたの感情プログラムがまた抑制モードになりますよ」 「ご忠告、どうも」スウェイも嫌味っぽく笑ってみせた。「それはそうと、非感染者のサイボーグは稼働させないが方が安全なのでは? 鉱区変更してもリスクは変わりませんよ」 「私も同意見です」 「はあ?」  稼働強行命令を予想していたので、彼女の返答は意外だった。 「イース・ノース中佐が待っています。行ってください」  セネア・ガーネットは何か訴えかけるようなしぐさを見せたが、スウェイは黙ったまま頷き、管理棟長室を出た。    
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