ささやかなレジスタンス

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「その通り。ハイパーウイルスⅢはあれで消滅したわけじゃないし。むしろ飛沫電子の感染経路がつかめない方が不安よ。現在、稼働中のサイボーグの中に陽性者がいるかもしれない」 「検査キットは?」  スウェイはたずねた。  セネア・ガーネットは首を横に振った。 「ない。仮りにあったとしても陰性反応が出ることもあるそうよ」 「感染していても?」スウェイは眉間にしわを寄せた。「だとしたら、ますます作業をさせるわけにはいかないよ。休業指示を出そう。鉱区は閉鎖し、作業員は自室で待機してもらう」 「それは重大な規則違反です。衛星オディエルナの業績が著しく悪化しているのがあなたも知ってるでしょ? 中佐がわざわざアシスタントロボットを持ってきたのも、業績回復のためです。あなたがそれにこたえるのは義務です」 「わかった」スウェイはやりきれなさを感じたが命令に背くわけにはいかない。「感染防御プランを作成して、作業に入ろう。鉱区変更はしない。あそこはパラジウムがたくさんありそうだ。それに天然ウラニウム鉱脈が地下千メートルにある可能性もあるし」 「期待できそうね」  セネア・ガーネットは満足そうに笑うと、監視室から出ていった。  スウェイはホールのモニタを覗いた。ロボットストレッチャーは全員の搬出を終え、ホールの中はがらんとしていた。  モニタのスイッチをオフにしようとしたとき、小さなゴミのようなものが視界のかたすみに入った。 「・・・?」  ゴミにピントを合わせてズームしていく。  一枚の紙きれのようだが。ストレッチャーがサイボーグ囚人を吊り上げる際に、誰かのが落ちたのかもしれなかった。  スウェイは、あっ、と声を上げた。  画面いっぱいに拡大すると、人間の成人女性と男性、そして幼い男の子と幼い女の子が写っていた。セピア色に褪せた家族集合写真だった。受刑者にも愛する家族がいたのだ。彼はその写真を抱きしめたまま旅立ちたかったに違いない。それは叶わなかったが・・・  スウェイの中で何かが崩れた。  サイボーグ囚人とはいえ、彼らにだって夢はあるのだ。  終身刑でも、ひょっとしたら生きて愛おしい人と抱き合うことができるかもしれない。  極悪非道の前科者にそんな救済はないのかもしれないが、それでも、彼らが一縷の望みを持っているとしたら。  おれにできること。  それは・・・  スウェイは顔をあげた。  抵抗(レジスタンス)・・・  
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