○春、新入部員

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○春、新入部員

「先輩……私、弓道部をやめます」 私の言葉に、相原先輩が顔を上げた。相原まこと先輩。弓道部部長で、今年高校三年生だ。桜舞い散る4月、私と先輩は二人きりで弓道場に立っていた。私と先輩はともに中学生から弓道をやっているので、二人ともそれなりに年季の入った弓道着を着ている。相原先輩は、穏やかな声で尋ねた。 「どうしてか、聞いてもいい?」 私は自分の掌を見下ろした。 「治らないんです……早気が」 港第三高校の弓道部は、できて間もないけれど中々の戦績を残している。何人もの生徒が個人戦で全国大会に出ているし、団体戦で優勝したことも多くある。 私は、女子のエースだった。 少なくとも、昨年のインターハイまでは。 同学年の白石ユカが、現在の女子弓道部のエースだ。今年の私はおそらく、団体戦のメンバーには選ばれないだろう。俯いている私の頭を、相原先輩がそっと撫でた。 「大丈夫だよ、弓原さん。いまはちょっと調子が悪いだけだから」 調子が狂った理由はわかっていた。白石ユカと、相原先輩が付き合っているのを知ったから。その日から私は、まともに弓を引けなくなった。
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