○春、新入部員

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私の家は、学校から徒歩5分ほどのところにある。まっすぐ帰る気分にもなれず、通学路にある「弦弓神社」に寄って行くことにした。一年この道を通っているのに、最近存在に気づいたばかりのこじんまりとした神社だ。鳥居をくぐって中に入ると、石段が伸びている。それを登っていくと、境内にたどり着く。正面には賽銭箱が置かれ、お参り用の鈴がぶら下がっている。 私は鈴をカランカランと鳴らして柏手を打った。どうか、弓がうまくなりますように。ふと、相原先輩の姿が脳裏に浮かんできたけどかぶりを振る。今更先輩とのことを願っても遅い。 タンッ。 その乾いた音を聞いて、私はぴくっと肩を揺らした。視線を動かしていたら、またタンッ、という音が聞こえてきた。 これは、的を射抜いている音。 でもこのあたりに、弓道場なんてあったっけ……。的を射抜く音は、境内の奥から聞こえてきた。 いったい誰が打ってるんだろう。 社務所を横目に歩いていき、本殿を過ぎたところに弓道場があった。私はそっと弓道場の中を覗いてみた。 一人の少年が、弓を引いていた。彼は水色の袴に白い上衣を羽織っていた。神職の格好だけど、まだ高校生くらいに見える。 弓に矢を番え、的にむかって引き絞る。矢はまっすぐに的へと飛んでいき、タンッ、と音を立てて突き刺さる。 彼の射は、鳥肌が立つほど美しかった。
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