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リコはそう言って立ち上がった。未経験者の多い弓道部は、見学に来た新入生に防具を貸して、体験してもらうことになっていた。私は弓道着姿に着替えて、リコと一緒に新入生たちに声をかけた。そうしながらも、頭の隅ではこう考えていた。
──何してるんだろ、私。
辞めるって決めたはずなのに、なんでこんなことしてるんだろう……。もやもやしていたら、きゃあっと黄色い悲鳴があがった。そちらに視線を向けたら、一人の少年が女生徒たちに囲まれているのが見えた。
あの子……。昨日弓を引いていた子だ。
「うわ、イケメン」
リコがそうつぶやいた。
確かに、彼はきれいな顔をしていた。でも、その顔はなんとなくつまらなそうに見えた。どうしてあんなに退屈そうなんだろう?
ふと、その子がこちらに視線を向けた。射抜くような眼差し。艶やかな黒髪と、大きな目が黒猫のようだ。
リコは私の耳もとに唇を寄せて囁いてきた。
「あの子、めちゃくちゃこっち見てない? 知り合い?」
「ううん……」
私はかぶりをふった。神社で目が合っただけでは知り合いとは言えないだろう。だけど、彼は私たちに近づいてくる。
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