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少年は私の目の前でピタリと立ち止まった。じっとこちらを見て口を開く。
「入部体験、できますか」
私はその声にドキッとした。見た目に似合わない、低くかすれた声。
「じゃあつばさ、案内してあげて〜」
リコはそう言って私の背を押した。えっ……私? 退部しようとしている人間が新入生を案内するのはおかしい気がした。私は困惑してリコを見返す。
リコは私の耳もとに囁いてきた。
「超大型新人を捕まえて、白石ユカを見返すのよっ」
「超大型新人……」
確かにこの少年の射はすごかった。この子を連れて行くことが、私ができる最後の貢献なのかもしれない。私は少年を伴って、弓道場に向かって歩き出した。彼の表情には新入生らしい緊張とか、期待というものが見られない。なんだか不思議な子だ……。黙っているのもよくないと思って、彼に質問してみる。
「名前、なんていうの?」
「りん」
「りん……くん?」
「弦音凛です」
彼はそう言って、大きな目でこちらを見た。この子の声、なんかすごい。美声というわけではないが、色気があった。
──って、一年相手になに考えてるんだろう。
「弦音くんって、こないだ弦弓神社にいたよね」
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