一夜の宴に発泡酒

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 世の中クズばっか。  あっちを見てもこっちを見ても、やれニート働け、やれ何度目の浮気だ。言うに事欠いてクズ、クズ、クズ。  そんなクズが許せない俺は、清く正しい正義マン。自己に陶酔した正義をところ構わずふりかざす、これまたクズ。  断言しよう。世の中クズしかいない。  ピロートークもそろそろ終わりか?  チラ、とパソコンの右下に表示されてる時計を確認して、やけに大きいヘッドフォンを外した。そろそろと壁に這い寄り耳をつける。ギシアン、ギシアン言わせていた隣の部屋は、いつの間にか無音になっていた。  ほっと肩を撫で下ろして息をつく。  居心地悪いったらありゃしねぇ。なんてったって、隣の部屋だぜ。アパートだとかマンションでいうとこの隣の部屋じゃなくて、正真正銘の隣の部屋なのだ。同じトイレを使い、同じ風呂場を使い、同じ玄関から出入りする。  要するに同居人の下半身事情が筒抜けな訳だ。  勘弁してほしい。そんなん聞かされるこっちの身にもなれよって話。  もう一度壁の向こうが静かなことを確認すると、俺は安心して扉を開けた。 「あ、」 「ひぃっ」  お、親方ァ! 扉を開けたら下着姿の美女が! 「わっ、す、すんませんっ!」  慌てて扉を閉めようとしたとき、すんでの所で扉が捕まれた。なんだよ、邪魔すんなよ、俺が変態みたいになるだろ。構わず渾身の力でドアノブを引っ張ったら今度は隙間に足が突っ込まれた。往生際悪いな。つかそれ挟まって痛くねーの? 「真崎」  低い声が雫とともに降ってくる。どうやらシャワーを浴びてそのまま出てきたみたいだ。諦めてドアノブから手を離す。見上げれば今度は全裸のイケメンだ。流石に下は隠すべきだと思うぜ俺は。あーあ、でけぇちんこだな。ついさっきまでそれがアソコに入ってたって? やめてくれよ、はしたない。ほら、後ろの美女も若干引いてる。あ、俺に引いてるのか。 「……んだよ」 「煙草買ってきて。あとゴムも」 「はぁ?」  お前のちんこのサイズとか知らねぇよ。何、これから二回戦始めんの? そろそろ終電終わっちゃうよ?  これだから困るんだよ。ヤリチンで俺様でイケメンな野郎は。滅べ。 「どうせ今日一歩も外出てねぇだろ。運動だよ、運動。豚になるぞ」 「あいにく豚のほうが価値あるんでね」  俺もうまい肉で人を幸せにして速やかに死にたかった。来世はブランド豚にでもなりたいな。 「お釣りはやるから、ほらさっさと行ってこい」  どこから出してきたのか、札を渡される。覗いてみればなんと5000円札だ。カートンで買うわけでもないし、精々1000円程度のお使いなのに、奮発しすぎじゃない? 俺のこと大好きなの? 「えっ、マジで? うっそ折本くん大好き愛してる」 「はいはい俺も愛してるよーさっさと行け」  睨みつけるような視線と共に、半ば追い出されるようにしてケツを蹴られた。もとより邪魔をする気はない。今日もこうして黙って部屋に籠ってたっていうのに。  後ろからは「え、なにあれー」とか「気にしなくていいよ、ただの寄生虫」とか「え、ニート? ちょ、やめたほうがいいって。弱みでも握られてンの?」とか、俺の名誉を侵害する会話が聞こえたけど気にしなかった。  だって事実だもん。ちなみに弱みは握ってない。
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