一夜の宴に発泡酒

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◇  俺はいわゆるニートではあるが、職なしなだけであって決して生産性のない人間ではない。なぜなら主夫であるからだ! 「しっかしおせぇ」  夕食を作ってからけっこうな時間が経っていた。どうせまたどっかほっつき歩いて、ちょっと休憩しよっか(キラッ)とかやってんだろうな。あんなイケメンにそんなこと言われれば断れないどころかイチコロだろう。ホテル代馬鹿になんねぇんだからやめときゃいいのに。  あ、俺がいるから家に連れ込めないのか。空気読んでくれてんだな。  ……え、なにそれめっちゃいい奴じゃん。マジ? 折本くん神なの? イケメンで俺様でヤリチンなのに、同居人に気が使える男? 超クールじゃん!  ははは、なんてね。  毎日のように別の女連れ込んでんだから、今日はたまたまだろ。事故ってなければいいけれど。  スマホを確認してみても特に連絡は入ってなかった。3時間前に『今から帰ります』と連絡が来たっきりだ。律儀なもんだ。  しかしこの律儀さを信じてはいけない。いつだったかこうやって今から帰ります、と連絡が来たときはいちいち『今、◯◯にいるよ』と連絡を寄越してきて、最終的にはお決まりの『今、あなたの後ろにいるよ』とか言ってきた男だ。暇かよ。 しかしこうも遅いと流石に心配になる。  なんて思っていた矢先だ。軽快なインターホンが鳴らされた。 「げぇ、俺が出んのかよ。なに、苦情? 毎晩女の喘ぎ声がうるさいとかそういうの? 俺じゃねぇんだよなぁ」  渋っていると、またチャイムが鳴らされた。そう急かすなよ。これは折本様のお帰りか? 「ほいよーっ!」 「あ、マジで人いた」 「……え、なにアマゾン? 荷物頼んでないんだけど」 「そりゃすんません。はい、お荷物」  渡されたのは乱れたスーツに身を包み泥酔したやけに顔立ちの整った男だった。おりょ? よく見てみたら折本くんじゃないですか。道理でこんなにかっこいいわけね。 「あー……なんかこちらこそすんません」 「いえいえ、急な飲み会だったもんで。普段来ない折本が来たもんだからみんな嬉しくなっちゃったみたいでさ」 「はぁ」  飲まされすぎた、とかそんなんか。サラリーマンも大変だよな。俺はもう二度となりたくないね。将来の夢は消防車! とかきらっきらの目で語るよ。 「弟さん?」 「違いますけど」 「……居候?」 「ルームシェアです」  ここにはプライドがあるのだ。俺だって家賃払ってるからね? 「へぇ」  なんだこいつは。疑うような目で見やがって。酔って眠りこけている折本をガシッと抱きかかえながら、ろくに顔も見ずにいた男を見上げた。  あー、イケてんね。折本ほどではないにしろ、これはあれだ。新任の高校教師として赴任した女子高で絶大な人気を誇る系のかっこよさだ。折本のチャラいちょいワルとは違う、爽やかな感じだ。なんでこう、イケメンの友達はみんなイケメンなのかね。  あからさまな敵意を持った目で爽やかスーツ男を見上げて威嚇していれば、折れたらしい相手が苦笑した。 「そんじゃまぁ俺はこれで。遅くにごめんね」  最後ににこっと歯を見せて爽やかに笑うとパタンと玄関が閉められた。お礼を言う暇さえろくにくれない。いけ好かない相手でも感謝はちゃんと伝えないとね。酔った折本がどこかに放りっぱなしにされたら、女に襲われちゃうところだったよ。いやー、無事帰られて何より。爽やか男へのお礼はまぁ、折本にちゃんと言っておけばいいだろう。
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