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「おら、てめーは自分で歩け」
「んぁ? あー」
「バカ胸揉むな」
「んー」
「俺、女じゃねーぞ」
普段連れ込んでる女と勘違いしてんじゃねぇだろうな? くすぐったい。つーか痛い。男だし俺はそこそこ痩せ形だから、柔らかい脂肪が胸についてるわけでもない。皮と皮膚を揉みしだかれるのは、これ割りと痛い。
「んひゃっ、ちょっと折本さん、そこ乳首だから。俺の尊い乳首触んないで腫れちゃう。お嫁にいけない」
半開きの目でむごむごと口を動かす折本をソファに座らせ、どうにか引きはがす。
「ほら、水飲んで」
「……」
ここまで酔った折本もなかなか久しぶりに見た。水を入れたボトルを渡してやっても、折本はぼけーっと俺の顔を見つめていた。
えーちょっと照れる。だってこいつすげー顔がいいんだもん。
「……」
「なんだよ、さっさと飲めよ」
「飲ませて」
「はいお口開けてねー」
「ん……ンゴボッ」
そりゃそうなるだろ。だから自分で飲めっつってんのに。
素直に開けられた口に容赦なく水をぶっこんでやればむせた折本がジト目で睨んでくる。
「怒った」
「そうか」
「こっち来て」
「へいへい」
イケメンが怒ると凶悪な面になるんだよな。素直に従い折本の前までくると膝の上に乗せられた。
いや、これ何プレイ? こいついつも女の子に何やらせてんの?
つーかヤバい。
「なぁ真崎ぃ」
「はい」
こいつが酔うのも久々ですっかり忘れてた。
そうだよ、折本は酒癖がけっこう悪いのだ。
「お前さぁ、いつになったら俺とセックスしてくれんの?」
どのくらい酒癖が悪いかって?
それは酔うと7割程度の確立で寝ゲロするくらいだ。
「ははは、ご冗談を。1日ハメなかっただけでもう溜まってんの? さっすが俺たちのヤリチンは違うね! あふれでる精力! かっこいい! 抱いて!」
「うん、抱く。俺生まれつきヤリチンだから」
そんな赤ん坊可愛くねぇ。
ヤリチンに先天性も後天性もあるのなら、俺は後天性の童貞だな。わはは。
「折本」
諭すように名前を呼べば、折本は持てる力全てを使って凄んできた。うひょ……背筋が凍るぜ。
「なんですかぁ? 折本、なに?」
「あーはいはい。可愛くねぇ」
つーか面倒くせぇ。まぁいつもと同じ。こんな時くらい名前で呼んでやってもいいか。
この後のことを想像すると、早いとこ折本を寝かせてやりたいが、無駄に意識がはっきりしてやがる。しょうがないから「んんっ」と咳払いをした。
「颯」
「聞こえましぇ~ん」
「はーやーて!」
数ヶ月ぶりに折本を名前で呼んでやれば、2歳児のようにきゃっきゃと笑った。凶暴な赤ちゃんですこと。
「あ、てめ噛むなよ?」
目立つところは隠すのが面倒なんだ。どうせニートで外でないんだから隠す必要もない? そんな簡単な話じゃねぇんだ。
「いでっ」
あーほら。言った端から噛みやがって。赤ちゃんかよ。首もとに皮膚が引きちぎれるほどの痛みが走った。
折本は満足気ににこにこしている。
「んふふ。脱いで」
「ええー……」
どうせ覚えていないのだ。酔ったらゲロとともに記憶を飛ばすからな。
もう何ヵ月前だっけ。最後に折本と体を重ねたのは。
こいつにその記憶はないみたいだけど。だから俺もなにもなかったように振る舞う。折本の精液と嘔吐物で体を汚して、そんでそれをこいつが寝ている間に何事もなかったように処理をして。噛み跡だらけの体をどうにかこうにか隠して。ろくに動けない体に鞭を打つ。だって主夫だからね。やるべき仕事はたくさんあるのだ。
しかし折本の前じゃ俺はいつだって処女だ。
まぁそれでいいんだけど。
むしろそれでいい。
だって男のちんこにはまっちゃったとかバレたくないしね。
ビール臭い息を吐き出す折本に顔を近づければ、察した折本がそっと目を閉じた。酔ってるときくらいしかこんなことできねぇよ。全部忘れてくれるんだから都合がいい。
軽く唇に触れ、舌を入れる。最初は恐る恐る。応えてくれれば、だんだん激しく。俺まで酔っているかのように気持ち良くなってきた。腹の底が疼く。もっと具体的に?
ケツの穴だよ。超挿れてほしい。昨日まで女を犯してたもんで俺のことめちゃくちゃのぐちゃぐちゃにしてほしい。
折本の厳つい手が腰を撫でる。そのやけに妖艶な動きにどきどきする。
くすりと折本が笑った。俺も平凡な顔なりに精一杯美しい笑顔を浮かべようと頑張ってみた。
「好きだよ、颯」
「俺は愛してる」
何度目の告白も、言い慣れてきた。恥ずかし気もなく愛の言葉を口にできるくらいには。
対して折本は恥ずかし気もなくこっぱずかしいセリフを口にする。何回聞いても恥ずかしくなるな。なんだよ、愛してるって。次こいつが酔ったときには録音しようかな。あ、それ最高。
服の下に侵入してきた折本の手が、後の穴に伸びて行く。刺激と快楽の待ち遠しさにもどかしくひくついた。俺の体も変わっちまったよな。
「処女の真崎くんにはとびっきり痛くて苦しくて気持ちいいのをくれてやるよ」
「じゃあとびっきり痛くして」
どうせお前は忘れるのだから。せめて俺には消えないくらいに刻み込んで。
明日には沫になる愛しい時間よ。
末永く。
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