1. 星柄のマーチ

1/24
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ

1. 星柄のマーチ

この場所にいると、普段よりも空を近くに感じる。 くすぐったいような風を感じながら、大きく息を吸い込んだ。そのまま楽器を吹くときのイメージで、ふうー、と息を吐く。よし、今日も調子バッチリ。 空と同じ色をしたメトロノームのねじを回すと、振り子が揺れてリズムを刻みはじめた。 カチ、カチ、カチ、カチ。 メトロノームの音だけが響く、ひとりきりの屋上。背筋をまっすぐに伸ばして、金色に輝く楽器を構える。大きく息を吸って、高らかに音を鳴らした。 ……心なしか、音色も春めいているような? わたし、貴島(きしま) 唯香(ゆいか)がトランペットを始めたきっかけ。それは、キラキラしていてカッコいいから。 トランペットを持つと、自然と意識もしゃきんとする。この自前のトランペットは、中一からの相棒だ。ひそかに、ジェファニーという名前をつけている。 学校の中で一番高さがあるこの場所は、周りの景色がよく見渡せた。様々な形の住宅が立ち並ぶなか、ぽこりぽこりと淡いピンク色のかたまり。何気ない風景も、桜の花が添えられるだけで、かけがえがないものに思えてくる。 ここ、空ヶ丘高校は、名前の通り丘のてっぺんにある。上り坂の登校は大変だけど、屋上の景色は格別だ。 遠くまで届けるつもりで、風に乗せて音を響かせた。 屋上にいると、どこまでも続く青空をひとりじめしているようで、ぜいたくな気分になる。 調子に乗って吹きまくっていると、バタッと勢いよく扉が開いた。 「あれ、お師匠さま。どうしたの?」 「今から音楽室で合奏するから、準備して」 「はーい」 一旦トランペットをケースに入れて、荷物をまとめる。 お師匠さまは、メガネの奥の切れ長の目から、呆れたような視線を送っていた。 「唯香(ゆいか)、音相変わらずでっかいよね……。いいことだけど」 「え、ほんと?」 えへへ、と照れてしまう。トランペットを吹き続けて五年目。基礎は、かなりみっちりやってきた。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!