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1. 星柄のマーチ
この場所にいると、普段よりも空を近くに感じる。
くすぐったいような風を感じながら、大きく息を吸い込んだ。そのまま楽器を吹くときのイメージで、ふうー、と息を吐く。よし、今日も調子バッチリ。
空と同じ色をしたメトロノームのねじを回すと、振り子が揺れてリズムを刻みはじめた。
カチ、カチ、カチ、カチ。
メトロノームの音だけが響く、ひとりきりの屋上。背筋をまっすぐに伸ばして、金色に輝く楽器を構える。大きく息を吸って、高らかに音を鳴らした。
……心なしか、音色も春めいているような?
わたし、貴島 唯香がトランペットを始めたきっかけ。それは、キラキラしていてカッコいいから。
トランペットを持つと、自然と意識もしゃきんとする。この自前のトランペットは、中一からの相棒だ。ひそかに、ジェファニーという名前をつけている。
学校の中で一番高さがあるこの場所は、周りの景色がよく見渡せた。様々な形の住宅が立ち並ぶなか、ぽこりぽこりと淡いピンク色のかたまり。何気ない風景も、桜の花が添えられるだけで、かけがえがないものに思えてくる。
ここ、空ヶ丘高校は、名前の通り丘のてっぺんにある。上り坂の登校は大変だけど、屋上の景色は格別だ。
遠くまで届けるつもりで、風に乗せて音を響かせた。
屋上にいると、どこまでも続く青空をひとりじめしているようで、ぜいたくな気分になる。
調子に乗って吹きまくっていると、バタッと勢いよく扉が開いた。
「あれ、お師匠さま。どうしたの?」
「今から音楽室で合奏するから、準備して」
「はーい」
一旦トランペットをケースに入れて、荷物をまとめる。
お師匠さまは、メガネの奥の切れ長の目から、呆れたような視線を送っていた。
「唯香、音相変わらずでっかいよね……。いいことだけど」
「え、ほんと?」
えへへ、と照れてしまう。トランペットを吹き続けて五年目。基礎は、かなりみっちりやってきた。
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