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調子に乗ってしまった私の心を反映するように、楽譜がバサバサと風に飛んでいった。
「あー!」
「もう、何やってるの」
バラバラの楽譜たちは空中を好き放題に舞ってから、ひらりひらりとタイルの上に落ちていく。フェンスの向こうに行ってしまいそうな楽譜があったので、身を乗り出してぱしんと掴んだ。
そのまま、体が前に傾きそうになる。ジェットコースターで落ちる時みたいに、目の前の景色がぐりんと反転した。
落ちる!!
「危ない!」
すんでのところで、お師匠さまが背中を支えてくれる。足がすとん、と床について体が安定した。
「た、助かったあ……!」
「やめて、心臓止まる。あと楽譜は飛ばないようにファイルに入れるとかしてよ」
お師匠さまは、顔を氷のようにガチガチに強張らせていた。とっても申し訳ない。心配させないように、わざとらしく明るい声を出した。
「いや、でも大丈夫だよ。セーフセーフ。この感じで十六年以上生きてるもん」
「不安になるって、切実に」
お師匠さまは気を取り直すように、グーにした手を口元に当ててコホンと咳払いをした。
「じゃあ、行くよ」
「りょーかい!」
楽器ケースと譜面台、楽譜を持ってお師匠さまと一緒に屋上を出た。階段でお師匠さまが、ひょいと譜面台を持ってくれる。
「ありがと!」
お師匠さまは、なぜか浮かない顔をしていた。
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