1. 星柄のマーチ

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「最近、あんたたちのお師匠さま呼びが、仮入部中の一年生の間でも定着しかけてんだけど」 「お師匠さま、いいと思うんだけどなあ」 「よくないわ!」 ポニーテールをぐいっと引っ張られ、うげっという変な声が出る。 ただ今の時期、平日は新入生の仮入部期間だ。再来週から、本格的な加入期間になる。 春は、出会いと別れの季節。三月が別れの月なら、四月はキラキラした出会いの月。 来週の金曜日には、校内コンサートを行う。マーチング形式で、行進しながら演奏して学校中をねり歩く予定だ。このコンサートで、人を集めたい! ひとりで勝手に意気込んでいると、お師匠さまはしらけたような目でこちらを見ていた。そろそろ髪を離して欲しい。 「いいよね、唯香は……」 「だってわたし、普通に唯香先輩って呼んでもらってるもーん。部長呼びされてないもーん」 それに、と続ける。 「お師匠さまも、わりとお師匠さま呼び気に入ってるでしょ?」 お師匠さまは、図星とでもいうようにむくれると、ぱっとわたしの髪から手を離した。 お師匠さまこと、甲斐(かい) 三葉(みつは)。楽器はトロンボーン。そして我が吹奏楽部の、コンサートミストレスでもある。 コンサートミストレス、通称コンミス。コンミスは、この部の音楽面の舵をとる、とっても大事な役職。合奏前の音合わせは、いつもお師匠さまが確認してくれる。先生がいないときは、合奏の指揮もしてくれる。 小学生のときからトロンボーンを吹いてているだけあり、音楽の知識も聴く耳もあるお師匠さまは、とても頼れる存在だ。 「そういえば、今日はどっちの曲やるの?」 「両方。まず最初にポップス合わせてから、そのあと星条旗」 「星条旗、楽しいよね」 「ピッコロ、先生にしごいてもらう予定」 お師匠さまは、ふふふと怪しげなオーラを放ちながら笑っている。ヒロくん、大丈夫かな。 「唯香も、緊張してる?コンサート」 「まあねえ。これで、今後の部活の方向性決まるし」
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