41人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「最近、あんたたちのお師匠さま呼びが、仮入部中の一年生の間でも定着しかけてんだけど」
「お師匠さま、いいと思うんだけどなあ」
「よくないわ!」
ポニーテールをぐいっと引っ張られ、うげっという変な声が出る。
ただ今の時期、平日は新入生の仮入部期間だ。再来週から、本格的な加入期間になる。
春は、出会いと別れの季節。三月が別れの月なら、四月はキラキラした出会いの月。
来週の金曜日には、校内コンサートを行う。マーチング形式で、行進しながら演奏して学校中をねり歩く予定だ。このコンサートで、人を集めたい!
ひとりで勝手に意気込んでいると、お師匠さまはしらけたような目でこちらを見ていた。そろそろ髪を離して欲しい。
「いいよね、唯香は……」
「だってわたし、普通に唯香先輩って呼んでもらってるもーん。部長呼びされてないもーん」
それに、と続ける。
「お師匠さまも、わりとお師匠さま呼び気に入ってるでしょ?」
お師匠さまは、図星とでもいうようにむくれると、ぱっとわたしの髪から手を離した。
お師匠さまこと、甲斐 三葉。楽器はトロンボーン。そして我が吹奏楽部の、コンサートミストレスでもある。
コンサートミストレス、通称コンミス。コンミスは、この部の音楽面の舵をとる、とっても大事な役職。合奏前の音合わせは、いつもお師匠さまが確認してくれる。先生がいないときは、合奏の指揮もしてくれる。
小学生のときからトロンボーンを吹いてているだけあり、音楽の知識も聴く耳もあるお師匠さまは、とても頼れる存在だ。
「そういえば、今日はどっちの曲やるの?」
「両方。まず最初にポップス合わせてから、そのあと星条旗」
「星条旗、楽しいよね」
「ピッコロ、先生にしごいてもらう予定」
お師匠さまは、ふふふと怪しげなオーラを放ちながら笑っている。ヒロくん、大丈夫かな。
「唯香も、緊張してる?コンサート」
「まあねえ。これで、今後の部活の方向性決まるし」
最初のコメントを投稿しよう!