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朝8時の開店早々一人の青年が店に入ってきた。
穂乃は「いらっしゃいませ!」と元気よく笑顔で青年に声をかける。
東側の窓から差す日は店の奥まで届いている。店内は焼き立てのパンの匂いでいっぱいだ。
朝一から男性客が訪れるのは珍しい。しかも初めて見る顔。背丈は180cm近くあるだろうか。肩幅は広めだが体格は引き締まっている。カッターシャツに青いチェックのネクタイが締められている。縁の厚い眼鏡の下の顔には温厚さが感じられた。
青年は店内をぐるりと見渡すと、バゲット1本と食パン1斤をトレイに乗せレジの前に立った。
穂乃は会社の同僚にでも持っていかれるのかなと思い、「スライスしましょうか?」と尋ねるが、彼は「このままで大丈夫です」と言う。穂乃はそのままパッキングし店の袋に入れて手渡した。
すると青年は「ありがとうございます」と礼を言い、店を出て行った。その背中を追いかけるように穂乃は「ありがとうございました」と声をかける。
直後に店長がぽつりと言った。
「かっこいい男性に見とれているようではホールは務まらないぞ。相手より先に挨拶! 忘れるな」
穂乃は「はい!」と返事をした。
確かにかっこいい青年。いや、かっこいいというよりも誠実そうで温かい感じの青年だった。
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