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喉から心臓が飛び出しそうだった。素敵だと思っていた男性から『一緒に働いてほしい』と頼まれるなんて出来すぎた話。出来すぎを通り越して逆に不安すら感じる。
穂乃は何とか呼吸を整えると、「正直なところ突然のことでびっくりしています。でもどうして私に?」と訊いた。
すると慎太郎は言った。
「デニッシュです。いつもぼくがデニッシュを買うとき、穂乃さんは愛おしそうに袋に包んでおられましたよね。きっとアイデアから焼き上げまでご自身で担当しているのではないですか?」
そう訊かれ穂乃は、「おっしゃる通りです」と答えた。
「やはりそうですか。パンと言うのは、作り手の真心が本当によく伝わる食品です。ぼくが最初にパン屋にお邪魔させていただいたとき、バゲットと食パンを買わせて頂きました。食べてみると本当に美味しかった。工房の皆さんの腕の確かさと意気込みが伝わってきました。そして二度目に寄って買わせていただいたデニッシュはたくさんのパンの中でも格別な味がしたのです」
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