人生の終わり

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 さっきから、大粒の雨が降っている。  雨は、容赦なく俺の体を打つ。おかげでズブ濡れだ。不快でたまらねえ。出来ることなら、屋根のある場所にさっさと避難したい。  だが、それは不可能だ。なぜなら、足が動かねえから。俺の足は、どう頑張ってもピクリとも動かねえんだ。  それにしても、この雨は何なんだ? かれこれ三時間くらいは降っているが、いっこうに止む気配がない。このままだと、俺の樹脂製の顔に穴が空いてしまうかもしれない。  そう、俺は人形なのだ。身の丈五十センチほどの人型である。赤いボタンのオーバーオール、赤いスニーカー、赤い髪、青い目、そばかすのある縞模様のセーター、薄ら笑いを浮かべた顔。 なんとも可愛いげのない姿だよ。俺が子供なら、絶対に部屋には置かないだろうな。  しかも、今いるのはゴミ捨て場だ。いずれは、他のゴミと一緒に回収され焼却炉で燃やされる。後に残るのは灰だけ。  そしたら、こいつも灰になっちまうな。  俺の左胸には、手製の名札が付けられている。下手くそな字で、チャッキー・ノリスと書かれている。俺の、大切な友達からもらったものだ。  ・・・  俺はチャールズ・レイ。かつては殺し屋だった。マフィアのジルコニア・ファミリーに入り、そこで殺し屋としての腕を磨き上げてきた。上から指令を受け、人を殺す毎日だったよ。  俺は上手くやってきた。これまで、ヘマをしたことはない。仕事は完璧にやり遂げてきた。  ところがだ、ある日いきなり逮捕されちまった。警察は、俺のやった仕事を全て知っていた。証拠も、全部そろえていたんだよ。やがて裁判になり、当然のごとく死刑を宣告される。  後でわかったことだが、逮捕されたマフィアの幹部が、俺の罪を検察にチクったのさ。司法取引を持ちかけ、てめえが助かるために大勢の人間を売ったんだよ。その中のひとりが俺だった。  俺は電気椅子に座らされ、あっという間に処刑された──  確かに死んだ、はずだった。  しかし今、俺がいるのは奇妙な場所だ。あたり一面は白く塗りつぶされており、奥行きというものが感じられない。不思議な空間であった。  ここは何なんだろうか、と周囲を見渡してみる。その時だった。 「お前は、これから人形に転生する」  不意に、そんな声が聞こえた。反射的に振り返る。  立っていたのは、木の杖を持った老人だった。真っ白い衣を着て、白く長い髭を生やしている。髪の毛も真っ白だ。昔、本で見た神話に登場する神のような……って、コスプレ大会かよ。  コスプレ老人は、こう言った。 「お前は、これまで大勢の人間の命を奪ってきた。その罰として、これから人形に転生させる。お前は心を持った人形として、未来永劫ずっと苦しみ続けるのだ」  ひょっとして、こいつは神なのか……と思った瞬間、俺の姿は消えていた。
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