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そして今、俺はゴミ捨て場にいる。
ジュリアとエリックは、言われた通り仲間割れだと主張した。だが、ミシェルは違った。
「チャッキーがやったの! 悪い奴をやっつけてくれたの!」
もちろん、警察はこんな子供の言うことなど信じない。
両親は、こう考えた。ミシェルは恐怖のあまり、空想と現実とをごっちゃにしていると。
それだけならいいが、両親はこうも考えた。チャッキーがいると、ミシェルは事件のことを思い出す。だから、この忌まわしい人形を捨てよう、とね。
俺は、両親の考えは間違っていないと思う。
あの三人の健全な成長のためには、俺みたいな不吉な人形など無い方がいいのだ。
にしても、この雨は何だろうな。やむ気配がありゃしねえ。一晩続きそうだ。
昔、ある詩人がこんなことを言った。空が泣く時、涙が雨になる……と。
んなわけねえ。それはわかっている。でも今日だけは、空が俺の代わりに泣いてくれてる……そんな気がした。
ジュリア、エリック、そしてミシェル……元気でな。
あーあ、俺はこれから焼却炉で焼かれるのか。
そしたら、どうなるんだろうな。
「やあ、迎えに来たよ」
その声に、俺はハッとなった。
目の前に、突拍子もない奴が立っている。年齢は二十歳くらいか。肌は雪のように白く、髪は黒い。目鼻立ちは彫刻のように整っている。近頃、イケメンという言葉は安っぽい使われ方をしているが、こいつは本物のイケメンだ。
もっとも、それは顔だけだ。こいつは、恐ろしくクレイジーな格好をしてやがる。頭には金の冠を被り、紺色のマントを羽織っていた。マントの下は、白いパンツを履いているだけだ。それも白ブリーフだぜ。
突如現れた、罰ゲームみたいな格好をしたイケメン………俺は、何も言えなかった。もっとも、最初から声なんかだせないけどな。
ぶったまげてる俺の前で、こいつは恭しい態度でお辞儀をした。
「僕の名は、アマクサ・シローラモ。簡単に言うと、魔王さまだよ」
てことは、裸の魔王さまってわけか。なんつーアホキャラだ。
「なんだそりゃ」
反射的に言っていた。直後、俺は唖然となる。
声、出てるじゃねえか!
異変はそれだけではなかった。いつのまにか、俺の目の前に人形がある。あの不細工なチャッキー人形が、ゴミ捨て場に横たわっていた。
そう、俺の体は元に戻っていたのだ。
「君の戦いぶり、見せてもらったよ。人形の身でありながら、実に見事だった。これからは、その力を僕の為に使ってくれたまえ」
えっ?
わけがわからず戸惑う俺に、シローラモは微笑んだ。
「君は、僕と契約したんだよ。これから君は、魔界に行き僕の部下として戦うことになる。嫌とは言わせないよ」
ようやく俺は理解した。ミシェルが襲われていた時、聞こえたのはこいつの声だ。この変態魔王が、俺の体を動けるようにしてくれたのだ。
ならば、言うことを聞かないわけにはいかないよな。
このチャッキー・ノリスの名を、魔界に轟かせてやるよ。
チャック・ノリスのようにな。
「では、行くとしよう」
シローラモに導かれ、俺は魔界への門をくぐろうとした。が、立ち止まり振り返る。
チャッキー人形は、雨に打たれていた。雨が顔を伝い、泣いているかのように見える。悪いが、こいつはいただくぜ……俺は、奴の胸についていた名札を外し、自分の胸元に付ける。
よし、一番最初のチャッキー・ノリス・ファクトを思いついたぜ。
チャッキー・ノリスは決して涙を流さない。なぜなら、彼の一生分の涙を、空が代わりに流してくれたからだ。
・・・
チャッキー・ノリスが魔界へと旅立っていった数分後、ジュリアとエリックとミシェルが現れ、ゴミ捨て場からチャッキー人形を拾っていった。
その後、チャッキー人形はミシェルの娘に受け継がれていった。
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