神に祝福されし子

1/5
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 「汝。その身を龍にやつしたものよ。」  静かに、私は呪文の詠唱を行う。  「やめろ!クララ!いくらお前でもそれは無理だ!」  今にも吐き出されんとする龍の吐息に顔を赤く照らされた仲間たちが口々に叫んだ。  そう、私たちは絶体絶命のピンチの只中にいるのだ。  背中には負傷した仲間。  正面には今にも全てを焼き尽くそうとせん業火。  普通の女の子なら眼前の邪龍に立ち向かおうとも思わないだろう。  だけど、私は違う。  「憤怒の炎を以て、何を為さんとするか。」  だって私は。  「憎悪に濁った瞳で、世界の何を見る。」  剣の柄をしっかり握りしめ、切っ先を邪龍の眉間に向ける。  「我が神よ、お力をお貸しください……!」  「ふう……」  息を一つ吐いて、自分を空っぽにする。  身体の先からどんどん溶けていく。“この”世界と同調していく。  神の創造したもう“この”世界と、私は一つになる。  「我が名はクララ。創造神に祝福された人間である!」  強く、地面を蹴る。龍の頭上へ飛び上がると、大きく剣を振りかぶった。  「はぁぁぁぁぁぁぁ!」  重力を味方につけて、一気に得物を振り下ろす。  『ぐぉぁぉぉぉぉぉぉぉ!』  苦悶の叫びが鼓膜を震わす。  それもそのはず。この剣はただの剣ではない。この世界では「聖剣」と呼ばれる名前の通り、聖なる剣だ。  「憐憫を以て、貴方を葬りましょう。」  ぐっと、剣を、その身を抉るように、深く押し込んだ。      「ごめんね。痛かったよね。」    私のその呟きは、きっと断末魔にかき消されたはずだ。  私はクララ。世界を救うために神に選ばれ、聖なる剣を振るう、たった一人の人間。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!