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久我祥介は、高校に入学したばかりとは思えない落ち着きと頭の回転の早さ、それに常に泰然とした王者の風格が人を惹き付けるカリスマ性のある男で、どうやら私立の有名進学校からわざわざ受験してこの公立校に来たらしい、というなんとなく複雑な事情がありそうな背景にも関わらず、そういうマイナスのイメージを一切感じさせることなくクラスにあっという間に溶け込んでしまった。
そういう“デキる男”なのに何故か、父子家庭でできることは家事から家計管理まで何でもこなしている鷹衛からしてみたら、え?そんなことも知らねえの?というような常識的なことをあまり知らない、世間知らずで世慣れていないところが時々垣間見えるのをなんとなく放っておけなくて、ついついちょっかい出したり世話を焼いたりしてしまい、気づいたらいつの間にかクラスのみんなから、鷹衛と久我はセットのように扱われるようになっていた。
そもそも最初の会話が会話だけに、鷹衛は久我と一緒にいることが苦ではない、というかむしろ楽しかったし、だからセット扱いされるのも、悪い気分ではなかった。
今まで生きてきた環境が違い過ぎて噛み合わないことがあっても、その噛み合わなさが面白かったし、そういう違い以外では、不思議なほど感性が似ていて、楽しいと思うこと、面白いと思うこと、綺麗だと思う景色、美味しいと思う味、何か感じるたび顔を上げれば同じような顔でこっちを見ている久我と瞳が合う、そんな関係がすごく居心地よくて。
久我が知らない、でも一般的には常識の範囲であるようなことを教えるたびに、キラキラと瞳を輝かせて、コレはどーなってんの?アレはどーやんの?と何でも興味を持って面白がって知りたがりやりたがるのも、その大人びた完成された見た目とのギャップもあって、カワイイとさえ思えて。
だけど、いつからだろう、自分が久我に対して抱いている想いが、もしかしたら友情とは少し違うのかもしれない、と不安になったのは。
例えば他の友人たちも交えて、年頃の男子なら必ずやるような、グラビアなんかを眺めてどの娘が一番好みか、なんて話をしているとき。
久我は、そういう話題にはあまり乗り気ではないようで、割とどうでもよさそうに「どっちかって言えばボーイッシュなほうがいーかなあ」なんて言いながら、いつもそう真剣に眺めることもなくテキトーに指差していたけれど。
なんとなく、彼がどの娘を選んだのか、が物凄く気になってしまったり。
或いは、彼がグラビアなんかに興味無さげなのは、どうやら中学時代に既にソッチの意味でオトナの階段を昇ってしまっているから、写真だけのオンナじゃそんなの物足んないに決まってんじゃん?と、友人たちが噂しているのを聞いてしまったときに、なんだか物凄くモヤモヤとした気分になったりしたとき。
もちろん最初は、とっくに経験を済ませている彼が羨ましくてモヤモヤするのかと思ったのだけれども、どうやらそうじゃないことに気づいてしまって。
同性の友人に対してこんなキモチを抱くなんて、それってやっぱり未だにカワイイと評される容姿のせいで、中身まで女っぽくなっているからなんだろうか、とか考えなくてもいいコンプレックスまで絡めてしまい、出した結論は。
こんなキモチ隠し通さなきゃ、だった。
同性の友人に恋愛感情を抱かれるなんて、自分がもし、久我以外のトモダチからそんな目で見られていると知ったら、「俺はオンナじゃない」と怒るだろうし、それまでと同じような付き合いを続けられるかなんて自信がない。
久我と今みたいな関係でいられなくなるなんてイヤだ。ましてや、キモチワルイものでも見るような目で見られたりして、トモダチですらいられなくなったら。久我はそういう奴なんかじゃないとは思うけれど、でも。
別に、友情とは違うトクベツなキモチを自覚したからといって、鷹衛はそれ以上の関係を求めているわけてはなかった。
今のままの関係で十分楽しくて幸せだったから。
だから、胸の奥の奥に涌き出てくる欲みたいなモノはギュッと押し込むように仕舞い込んで。
そうすれば、ずっと、親友というポジションで傍にいられるはずだった、のに。
そんな、欲にまみれた汚い気持ちを隠蔽して、何事もなかったかのようにずっといよう、なんて、潔くない卑怯な真似をしたからか。
バチが当たったのだ。
誰よりも鷹衛を愛してくれて、唯一の味方でいてくれた父を、あんなふうに亡くしてしまったのは。
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