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帰宅
「ねぇ、どうして、私たちの関係は秘密にしなければならないの?」
鈴川が小首を傾げて、振り向いた。
艶やかで、美しい黒髪がはらりと肩から落ちた。
僕は口の端をつり上げて、ニヤリと笑う。
「秘密の方が、面白いだろ?」
学校のみんなには秘密だが、僕たちは幼馴染なのだ。
体育祭で男女ペアを作らなければならない、と知った時に、この計画を考えた。
こんなにも、上手くいくとは思ってもみなかったが……。
これで、しばらくは合法的に、僕が鈴川の……いや麗のそばにいられる。
麗の本当の美しさ、可愛さを知っているのは僕だけ。
この先も、この特権を僕だけが独占し続けたい。
「ねぇ? 本当に小説を書いてくれるの?」
隣を歩いている麗が僕を見上げた。
丸い目が輝いている。
そんなに嬉しいものなのだろうか?
「あ、あぁ。勿論」
「やったー!」
麗は小さくガッツポーズをして、はにかむ。教室では見られない麗のえくぼが幼く、そして愛らしく感じる。
僕は麗の手に自分のそれをそっと重ねた。
麗はパッと頬を赤らめ、僕に眩しい微笑みを向けた。
僕たちは夕日を背景に並んで帰宅した。
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