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鈴音の本音
これはまだ、鈴音が来生家に同居してすぐの頃の話である。
「ふつー」
鈴音が作ったみそ汁をひとくち飲んで、夏樹は言い放った。
鈴音はオタマを持ったまま腰に手を当てて振り返り、
「普通って何よ。普通で悪ぅございましたわね」
テーブルに行儀悪く肘をついて座る夏樹は、今朝は朝帰りだった。
二日酔いで辛いのか、気だるそうに目を伏せシャツの前をはだけた、えらく色っぽい恰好をしている。
首元にふたつみっつ見える赤い痕は、誰かにつけられたキスマークだろうか。
夏樹は、
「誰も悪いなんて言ってねーだろ。普通って言っただけ」
眠いならさっさと部屋に戻ればいいのに、わざわざ朝食のテーブルについて、鈴音のみそ汁を飲んで、この言いようだ。
鈴音でなくてもカチンとくる。
「勝手に食べといてその言いぐさ。だいたい夏樹は――」
売られたケンカなら買うとばかりに、もうひとことふたこと言い返してやろうとすると、顔をあげた夏樹とばっちりと目が合う。
夏樹は、赤い唇をゆったりとあげて、余裕たっぷりに微笑んだ。
「――」
その視線に、思わず息を飲む。
「……もっと、他の言い方があるでしょ……」
つい文句も引っ込んでしまう。
夏樹は時々、直視するのが怖いくらいの色気を放つ。
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