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赤くなる頬を隠して背を向ける鈴音の代わりに、
「夏樹、言い方を考えろ」
春一が口を挟んでくれた。
「せっかく鈴音が作ってくれたんだ。もっとマシなことが言えるだろう」
春一も仕事で帰りが遅いが、朝食時には必ず起きてきて一緒に座る習慣になっている。
朝食の時間だけが、来生一家が揃う貴重な団欒の時間だからだが、
「俺は味が普通だから普通って言っただけだぜ。ウソつくよりマシだろ」
「ウソって、お前なぁ」
なぜだかいつも、夏樹とケンカになってしまう。
「じゃあ春は、鈴音の作ったみそ汁を日本一うまいって言えるわけ?」
「日本一ってそんな大げさな」
「だろ。だったら普通っていうのが正当な評価じゃねーか」
でも春一と夏樹の口ゲンカは、どこかじゃれ合っているみたいだ。
「とにかく、俺は鈴音の献身への評価をしろと言ってるんだ。俺達のために朝早く起きて飯を作ってくれる。毎日ともなれば大変だろう」
「ああ、大変な仕事なのはわかってるさ。俺が作ってた時は、今朝みたいな飲み過ぎた朝には、食パン丸ごと出して終わりだったもんな」
「ホントだよ。パンだと秋哉が食った気がしないと騒いでひと騒動だったんだ。鈴音が作ってくれるようになってから、そんなことはなくなったし、冬依もちゃんと朝飯を食って学校に行くようになった」
「最近冬依の顔色もいいよな。鈴音のおかげだ」
そう言いながら、ふたりしてチロンとこっちを見る。
ついでとばかりにイケメン長兄組にニコリと微笑まれて、鈴音はなんだか照れくさくて恥ずかしくて、いたたまれない気分になった。
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