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するとそれまで黙ってご飯を食べていた冬依が、
「もう行くよ秋兄」
イスを鳴らして立ち上がる。
そういえば、すっかり忘れていたが、朝食の席には年少組の弟たちもちゃんといたのだ。
秋哉は未練がましく、
「お、もう行くのか。ちょっと待て。あとひとくち」
なんて丼メシをかっ込んでいるが、冬依が無視して歩いていくと、
「わかったってば、待てよトーイ」
慌てて箸を置いて追いかけた。
鈴音も立って玄関まで見送りに歩いていく。
「冬依くん秋哉くん、行ってらっしゃい」
声をかけるが、ふたりからの返事はない。
鈴音の目の前で素っ気なくドアが閉じてしまう。
でもふたりは、別に鈴音を嫌っているわけではない。
ただこれまでそういう習慣がなかっただけなのだ。
春一が出勤するときにも同じように玄関まで見送るが、春一も最初はびっくりした顔をして、
「――ってきます」
と、ぎこちなく返してくれたが、照れて耳まで真っ赤になっていた。
思春期のふたりだから、きっともっと恥ずかしいのだ。
そんな秋哉や冬依のことを、鈴音は可愛いとさえ思う。
そしてこのふたりの春一愛も、なかなか興味深い。
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