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朝は夏樹の邪魔をしないと口を挟まないふたりも、春一がたまに仕事から早く帰ってくると、そわそわと落ち着かなくなる。
「秋哉、ちゃんと服を着ろ。裸でうろうろするな」
リビングをパンツ一枚で歩き回る秋哉に春一の一喝が飛び、
「えー、別にいいじゃん。暑いんだからよ」
秋哉は不服そうに唇を尖らせるが、春一に睨まれて、
「ヘイヘイ」
とどこかやる気のない返事をして、一旦はおとなしく部屋に引っ込む。
だけどすぐに、秋哉はパンツにTシャツだけという珍妙な恰好で出てくるものだから、春一は、
「はぁーっ」
と頭を抱えている。
春一は気にするが、実は鈴音は平気だ。
だいたい秋哉はまだ高校生で、それくらいの子どもが裸でうろうろしても、別に何とも思わない。
それに秋哉が履いているパンツは、鈴音が毎日洗濯をしているものなのだ。
毎日見慣れているパンツを見ても、
『ふーん、あのパンツ、ローテーションが早いのね。お気に入りなのかな』
と思うくらい。
春一に怒られるのがわかっているのに、わざわざそんな恰好でリビングに出て来る秋哉は、もしかしたら、
「春さんにかまってもらいたいんじゃないかな」
と鈴音は思う。
叱られるのも立派なコミュニケーションのひとつだ。
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