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(1)
「松尾ー!今日合コンこないか?」
春の長閑な日差しがさす会社の食堂で昼ごはんの天ぷらそばを食べていると唐突に声をかけられた。
短めの黒い髪を揺らし話しかけてくる人物、それは同期の小林である。
「随分急だな・・・。」
今日行われる合コンの誘いだなんてあまりにも急だ。怪訝な顔で小林を見上げる。
「ドタキャンがあってさ・・・。頼むよ!春は出会いの季節だろ?」
そう言いながら小林は俺の隣の席に座り目の前でパン、と手を合わせた。お願いだから、と呟きながら伺うようにこちらを見てくる。
「俺合コンとか苦手なんだけど・・・。」
俺が溜め息混じりにそう答えれば、そこをなんとか!、と小林も引き下がらない。
「相手可愛い子揃いでさ!こっちもイケメン揃えるって条件で合コンセッティングしてもらったんだよ。松尾様〜!お願い!」
そーいうことか・・・、と再度溜め息を吐く。イケメンだと言ってもらえるのはありがたいが俺は合コン、というよりも飲みの場が苦手なのだ。
(俺、酒弱いし酔ったら寝ちゃうんだよなぁ・・・。)
そう、俺は下戸である。ビールなんて一杯も飲めない。飲めたとしてもカシオレくらいだ。なによりお酒をあまり美味しいと思えなかった。だからいつも参加必須の会社の飲み会や気の知れた相手以外との飲みの場は断っているのである。
そもそも酔うと人間なにをしでかすか分からない。もし酔ってメンズランジェリーが好きだと暴露したら?吐いて服を汚し脱ぐことになったら?まして合コン、王様ゲームで裸になれと言われたら?不安な要素なんて数えきれないほどあるのだ。
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