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「毎回、伊織先生んとこの衣装は細かいよねぇ」
六月のはじめ、いつもの撮影に臨む俺たちを見学しに来ていた本乃編集長はそう嘆息した。
「そりゃぁ私んとこは束砂さんという優秀なデザイナーがいるからね」
伊織先生はふふんと鼻を鳴らす。自分とこのスタッフ褒められたら嬉しいものね。俺らモデルたちはライバルでもあるけど、それでも仲間が認められるのは嬉しい。それはスタッフでも同じだ。
今回の衣装のテーマは雨であるらしく、透明感の生きたひらひらした衣装。着てるだけで涼しくなる。そのセンスを見抜いた伊織先生はやはり出来る人なのだろう。
「衣装も大分貯まっただろうからファッションショーをやらないかい?一回こっきりじゃ勿体ないだろ?」
「ファッションショー⁉」
本乃編集長の提案に一番声をあげたのは、やはり束砂さんだった。
「私の?私のデザインで⁉」
あたふたと動き出す束砂さんの両肩をタッくんが抑える。
「束やん、落ち着け。チャンスなのだから。仕事増えるかもよ?」
「でもでも、伊織先生のスタジオの衣装だけでさえ結構お給料もらってるんですよ!出過ぎた真似なのでは!」
やはり束砂さんはわたわた。
「いいと思うけどなぁ。束やん、俺らに合わせた衣装作ってくれてるんだから、一回じゃ勿体ないし、俺らも嬉しいけどなぁ」
げたんわくんが、ボソリと呟くと束砂さんはこくこくと首を縦に振る。
「やります!タッくん様とげた様が言うならば、やってやりますわーー!!」
「と言っても今まで使った奴を使うから新作はなしでいいよ」
本乃編集長の一言に束砂さんは、きょとんとする。
「新作なしですか⁉」
何気に残念そうだった。
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