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「シズクさんはどうしてここへ?」
「学校がこの近くで、帰り道に雨が降ってきたので雨宿りに……」
「何だか、あの時みたいですね」
ユウが笑いながら、空を見上げる。
既に雨は止み、雲の隙間から少しだけ太陽を覗かせていた。
太陽に照らされた愁い気な表情に、シズクの心が跳ね上がる。
「前ここで会った時、話しましたよね?僕が浪人生だという事」
「そういえば、言ってましたね」
「僕、どうしても医者になりたいんです。だけど大学受験で落ちてしまって、先行きも見えなくなってしまって……不安でいっぱいでした」
そう言いながらポケットから取り出したのは、お守りだった。
長い間持っていたのか、既に破れそうな程ボロボロになっている。
「僕には母がいません。まだ小さい頃に病気を患って、そのまま……。母との思い出は少ないですが、このお守りをくれた日の言葉は今でも忘れません。“絶対に夢を諦めないで”と」
その言葉に、シズクも反応する。
本当なら両親から聞きたかったその言葉。
純粋に応援してほしいという答えに、ようやく辿り着く。
不意にシズクの目から、涙が零れ落ちる。
それに気付いたユウは、慌ててハンカチを取り出す。
「ご、ごめん!!こんな暗い話するべきじゃなかったね!!」
渡されたハンカチを受けとり、首を横に振る。
これは悲しみの涙じゃない。
「ユウさんのお陰で、自分の求めてたものがわかったんです」
落ち込んでいた気持ちが、少しだけ前を向いた気がした。
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