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それは1冊の本だった。
何かの教材の様に見えたが、文字が暗くて読めない。
「これ、サユリさんの物ですか?」
その本を手繰り寄せ拾い上げると、ようやくその文字が正体を現す。
「保育士?」
その教材は、未経験向けの保育士教材だった。
本は既にヨレヨレになっており、何度も読み込まれた形跡が残っている。
そこに置いていたことを忘れていたサユリは、顔を真っ赤にしてシズクから本を受け取った。
「は、恥ずかしいなぁ……こんな形で他の人にバレるとは……」
「サユリさん、保育士目指してるんですか!?」
「アタシ、今年で25歳になるんだ。小さい頃からずっと持ってた夢なんだけど、途中で挫折しちゃって」
サユリは本を眺め、話を続けた。
「高校生の時に反抗期真っ只中でさ、家出したんだ。その時に酷い目にあって、家に帰ってもその傷が癒えなくて結局不登校。そのまま退学したんだ」
いつの間にかシズクの朝食を進めてた箸を止めて、その話に聞き入っていた。
自身と似た部分もあり、それ以上に自身より酷な状況に巻き込まれていた事に生唾を呑む。
そこでテレビから、朝の8時を告げるアナウンスが聞こえてくる。
一瞬耳を疑ったが、間違いない。
「やっば!!遅刻する!!」
サユリの言葉と同時に、一緒にシズクも立ち上がった。
遅刻ギリギリ、お互い慌てて準備を始めバタバタしたまま家を飛び出す。
2人とも、傘を家に置いたままだった。
今日も、雨が降る。
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