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あの日の喧嘩は最悪だった。
母親には「そんな悪い子に育てた覚えはない」と嘆かれ、父親には「何でも買い与えたのに恩を仇で返すのか」と怒鳴られる。
シズクにとっては、親の勝手全てを望んではいなかった。
「私にだってやりたい事がある!!」
初めての反抗の言葉と共に、シズクは家を飛び出した。
学校と家の近くにしか行ったことが無かった為、学校近くのこの公園に辿り着いたのだ。
「あ!雨やんだよ!」
雨宿りしていた少年の声で、思い出から現実に引き戻される。
通り雨だったのか、あまり時間が経たないうちに小雨になりつつあった。
この程度ならとぞろぞろ帰りだす中、まだベンチから動こうとしない。
暫く無心のまま空を見上げていると、ベンチに座った男の姿が視界の端に移る。
その姿に見覚えがあり、思わずその男の方に目を向けた。
「あ、あの……武藤さん?」
「えっ?」
声をかけられた青年は、驚いてシズクの方に顔を向ける。
だが見知った顔に納得して、笑顔が零れた。
「前の雨の時に会った……」
「加瀬シズクです。お久しぶりという程間開いてませんけど、元気そうでなによりです」
「加瀬さんこそ、お元気そうですね」
「私の事はシズクでいいですよ」
「じゃあ僕の事も、ユウで構いませんよ」
懐かしい顔に喜ぶシズクだが、心の中ではあの時感じた胸の高鳴りを再び感じていた。
ユウの顔を見る度に心がざわつき、顔が自分でも分かるように熱く真っ赤になっていく。
ただシズク本人は、この感情が何なのか理解できずにいた。
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