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雨宮サユリ
3年間、彼女は彼がいた。
社内恋愛というもので、それをとても幸せに感じていた。
だがそんな人生も今日まで。
たった数文字の言葉で、サユリは彼を失った。
普通のOLに、また戻ってしまったのだ。
「お邪魔します」
22時を回った頃、シズクが訪れたのは小さなアパートの一室。
サユリの住う、一人暮らしの部屋だった。
そこまで家具などに拘りは無く、シンプルにまとまっている。
「ここ座って」
部屋の隅にあるベッドに腰掛けるよう促すと、シズクはそこにゆっくり腰かけた。
「さっき言ったお願いの事、聞いてくれる?」
「泊めてもらうのですから、何でも聞きますよ」
素直な返事に、サユリは思わず笑みを溢す。
シズクの隣に座ってひと息ついてから、話を始めた。
「携帯持ってたね、自宅の電話番号わかる?」
「電話するの?」
「大丈夫、家に帰すことはしないよ。だけどここにいるってちゃんと把握してもらわなきゃ、もっと大変な事になるよ」
これは、サユリの経験談だった。
家出の経験は1度だけあるのだが、それがあまりにも酷かったのを嫌になる程覚えている。
反抗期真っ只中、些細な喧嘩で家出した。
だが世の中は、サユリみたいに良い人ばかりでは無い。
「君?ひとり?」
声をかけてきた、スーツを着た男が1人。
家に泊めてあげると言われてついて行ったが最後、思い出しただけで吐き気が止まらない程最悪な目にあった。
狭い部屋、小さい布団、汚い汗、男の気持ち悪い声。
こんな気持ちの悪い思いをするとは、夢にも思わなかった。
そして喧嘩していたはずの親に再会した時、喧嘩してた事なんてすっかり忘れて泣き崩れる。
母はただただ心配だったと一緒に泣いてくれて、父は警察に届けようかと悩んでいたと言う。
こんなに心配させてしまったんだ、その過ちを大いに反省した。
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