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難しい顔でシズクを見つめるサユリを見て、少し躊躇いながらも携帯を取り出す。
「この携帯からかけてください」
「ありがとう、少し話するだけだからね」
携帯を受け取り、ベランダへと出る。
さっきまで雨が降っていたとは思えない程、星空がそこに広がっていた。
少し温い風を肌で感じながら、携帯の方に向き直る。
画面には既に母の番号が表示されており、1回押すだけで直ぐにかけられるようになっていた。
ひと呼吸置き、通話ボタンを押す。
2回コール音が聞こえたかと思えば、すぐに通話主の声が聞こえた。
『シズク!?』
「あー……すみません、シズクさんから携帯をお借りしてます雨宮サユリと申します」
『シズクは、シズクは無事なんですか!?』
「大丈夫です、無事です」
電話の向こうで、安堵のため息が聞こえる。
よほど心配してたのか、そこからの言葉から声が震え始めた。
『シズクと進路の事で喧嘩してしまいまして、家を飛び出してから心配で心配で……。すぐ迎えに行きます』
「あ、あのちょっと待ってください!初対面でこんな事言うのもアレですけど、今日だけ私の所で預からせてください!」
『えっ?』
「分かってます、見知らぬ人の所に預けるなんて心配だと思います。アタシも家出経験あって、その時に酷い目に合いました」
電話口から返事は無い。
だけどサユリは、自分の想いを乗せて言葉を続ける。
「シズクさんは帰りたがってない、その気持ちもわかります。もちろんお母さんの気持ちも…。1回お互いの気持ちを整理する為にも、1日だけアタシの所にシズクさん預けてみませんか?」
暫しの無言、虫のいい話だとは分かっているが、このままシズクを帰すのも可哀想だと思っていた。
顔も見た事がない人の所に預けるなんて、不安で仕方ないだろう。
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