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薄い黄色の照明に照らされて、漆塗りの大きな鍋が水面を反射していた。縁がぐつぐつと煮えたぎる。硬度を失くした野菜たちが力なく浮かんでいた。 「はい、あなた。」 妻の美希が白い器をこちらに差し出す。礼を言って受け取り、智哉は中に浮かんだ肉団子を一つ口の中に放った。 大学の文学サークルで出会った美希とは交際を始めて3年で結婚した。友人からは高嶺の花だと言われていた彼女だったが、徐々に距離を縮めていった。まるでモデルのように足が長く、小ぶりではあるが形の整った乳房に、智哉は胸が躍ったものだった。薄い涙袋に押し上げられた瞳は顔の中でもかなり主張しており、控えめながらもすらっと長い鼻筋に、浮かんでいるような唇はどこかぽてっとしていて、歯で挟むとかなり柔らかい。美希は体の薄い肉を軽く噛まれるのが好きだそうだ。 バラエティー番組を垂れ流しながら、煮込まれた野菜を咀嚼していく智哉は頭の中に浮かんだ同級生のことだけを考えていた。 中学生の時から佳奈恵は分かりやすい冗談だけを言っていた。誰かが悲しむような嘘はつかない。それは彼女の性格を知っているからこそ言えることだった。だとしたら末期の食道癌であることは事実。ただ疑問としては、そんな状態で不倫を行うことは可能なのか、ということだ。彼女の体育の成績を知っているわけではないが、重病人であることに変わりはない。仮に自分が不倫を了承したところで満足のいく内容になるのだろうか。 そんなことばかりを考えていたために美希と視線を合わせることができず、いつの間にか満腹になった智哉は風呂場に向かった。 簡単に体を洗い流し、湯船に浸かる。毎晩のルーティーンに向けて陰部は入念に洗った。 サテン生地の黒い寝間着に着替え、髪を乾かした智哉はリビングを抜けて寝室に向かった。薄暗い部屋の中で美希がぼんやりと立ち尽くしている様子が分かる。中途半端に開いた扉を全開にして、美希の下着姿が目に入った。 「あなた、もうしよう?」 黒いレースが体の上を這って、乳輪だけを隠している。お椀のような乳房の全体像が見えた。腰回りに花弁を施しているかのようなショーツが彼女の秘部を小さく隠す。既に照った表情でこちらを見る美希は、おそらくもう濡れているのだろう。表情だけでその人の見えない部分がわかるのだから、人間は面白い生き物だった。 智哉は寝間着を脱ぎ、ボクサーパンツ1枚になって美希の前に立った。待ちきれないとった感じで美希は智哉の前に手を伸ばす。まだ柔らかい彼自身を、しなやかな指先が踊るように愛撫する。布の上からの刺激で、ペニスは薄く硬度を宿した。 美希は子供を欲しがっていた。両親と会う度に何度もそう言われ、まるで義務かのようにセックスを行うようになってから3年。毎晩美希の中に精子を投擲しても生命は産まれずにいた。おそらくお互いに体力、そして年齢の限界を感じている。だからこそこの1年が勝負だった。30代半ばでの出産となれば美希の体力が危うい。彼女は昔から病にかかりやすいのだ。学生時代に何度も彼女の住む家を訪れては看病していた。 2人はいつの間にか下着を全て剝ぎ、生まれたばかりの姿でベッドに沈んだ。白い丘の上に咲く桜桃を舌先で蹂躙し、全身を撫でながら膣へと手を忍び込ませる。既に大腿部までしっとりと濡らしていた。 「あなた、欲しい。」 硬直したペニスを両手で包みながら、眉尻を下げた美希は言った。彼女は繋がった状態で絶頂を迎えたいらしく、2人のセックスにおいて愛撫の時間はかなり短い。 恥ずかしげもなくぱっくりと足を広げ、股を見せつける美希はこちらに両手を伸ばして今か今かと挿入を待ち望んでいる。普段の彼女はおしとやかな性格で、近所からの評判も高かった。いい奥さんを持ったと何度も言われたほどである。そんな彼女は毎晩悲しむ弱者のような表情を浮かべながら自分のペニスを求める、智哉にとってそのギャップが何よりの興奮材料であった。 暴発しそうな雁首を濡れた外壁の中に埋め、ゆっくりと挿入する。中を満たす旅。まるでお湯だらけの宇宙に飛び込んだような感覚だった。 「あっ、すごい。気持ちいい。」 腰と腰が触れ合う。たっぷり時間をかけて波を送り、彼女は智哉の真下で目を瞑りながら喘いでいた。蜜壺の奥を叩く度に淵から粘液が溢れ出る。小ぶりな丘が乱れながら揺れていた。 智哉はその時、佳奈恵を思い出した。不倫となれば彼女ともセックスをすることになるのだろう。してはいけないと分かっていても頭の中に浮かんだ佳奈恵の仮の裸が消えない。 美希と違って少し丸みのある彼女は、数時間前に会った時も膨らんだ乳房を揺らしていた。ベッドの上で激しく突けば体中の薄い肉が波のように動いていくのだろうか。何故かその姿を想像するだけで肉樹の中に熱がこもる。臀部から痺れが伝わるような感覚がして、思わず智哉は声を漏らした。 「あなた、私いっちゃう。もっと。」 「ダメだ。俺も限界。」 普段なら何度か体位を変えていくのだが、佳奈恵を想像していた為に今夜の絶頂は早かった。様々な水の手がペニスを包み込むようで、腰の動きが早くなる。絶頂を迎えたのはほとんど同時だった。ぐんと締め付ける鍾乳洞の中で智哉の分身が微かな痛みと強烈な熱を伴って散っていく。しっかりと美希の奥底に熱を注ぎ込んだ智哉は、彼女の上に倒れ込んだ。 「今日は早いのね。疲れてた?」 息を荒くして美希は言った。決して疲れがあるわけではない、同級生の裸を想像してしまった、そんなことが言えるわけもなく、智哉はただ頷くことしかできなかった。
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