14

1/1
前へ
/45ページ
次へ

14

東池袋中央公園は複合商業施設の足元にあるものの、その光は茂みに掻き消されている。灯台下暗しという言葉が当てはまるようだった。鬱蒼とした木々の中に人は誰もいない。舗装された道を歩きながら、2人は布越しに秘部を擦り合った。 膨張した肉樹がスラックスになだらかな丘を作り出し、少し小さな彼女の手で撫で回されていく。抵抗するかのように智哉は佳奈恵のジーンズに手をやって、ファスナーの真下に力を込めた。ぐんと少しだけ強く押すと、佳奈恵の全身に薄い波が漂う。鈴虫に似た鳴き声が両端の茂みから響いていた。 「こっち…。」 吐息が荒くなって、佳奈恵は膨らんだ肉樹を布越しに掴んで先導した。いくら夜に積極的な美希でもここまで求めてくることはない。これが余命を課せられた人間の欲求なのだろうか。 2人が辿り着いた場所は、公園の中央だった。開けた空間の先に赤茶色のビルが光を放っている。しかし時刻は夜の9時半をとうに回っている。まるで隔絶された世界のように感じた。 ベンチに腰掛け、佳奈恵が前にしゃがみ込む。ファスナーをおろして智哉自身を解放させる。不思議な空間だった。2人を完全に隠しているわけではないのに、光が届かない。感情さえ違えば恐怖すら感じる闇が薄く染みている。ベンチの後ろを覆い隠す茂みのせいなのか、口いっぱいにペニスを含んだ佳奈恵を見て、何も分からなくなった。 「ゴム、ある?」 涎に塗れた雁首を親指の腹で撫でる佳奈恵は、獲物を離さない獣のような目でこちらを見ている。隣に置いた鞄から財布を取り出して避妊具の小袋を抜いた。何故コンドームを財布の中に入れるだけで金運が上がるという都市伝説が出回ったのだろうか。ビニールを裂いて小さな円の避妊具を取り出す。素早くそれを奪った佳奈恵は慣れた手付きで避妊具を被せた。 こちらに背を向け、ジーンズを器用に下ろす。ふっくらとした尻だけが漏れてジーンズのウエストに肉が乗った。T字のショーツは苺を複数握り潰したかのような濃い赤色で、クロッチをずらすと垂れる尻の肉から悪魔の口が覗いた。薄い明かりで透明な糸が引いていることが分かる。ゆっくりと腰を下ろす佳奈恵に合わせて、智哉は足を開いた。ペニスの角度を調整して彼女を迎える。経験のない野外での行為が何故こうも簡単に進んでいくのかが理解できずにいた。もしかしたら自分もこうなることを望んでいたのかもしれない。だとすると自分もまだまだ若いのか、智哉は夜の公園で彼女と繋がり、そう感じた。 「声、出そう。」 智哉の両膝に手を置いて、佳奈恵はダンサーのように尻を振った。虫の鳴き声に粘液が絡み合う音が重なる。2人の小さな喘ぎ声も相まったカルテットが東池袋の夜空で奏でられていた。今行われていることが事実なのか、時折分からなくなるほどの微かな音が頭の中でこびりついて離れない。もしかしたら佳奈恵はこのまま死なないのではないか、そんなあやふやな希望さえ見出してしまう。3ヶ月が経過しても彼女はこのまま自分を求めてくるかもしれない、そうなった時、自分は彼女を拒んで美希を選ぶことができるのだろうか。そんな妄想が儚く散った引き金は、佳奈恵のエクスタシーだった。 「いく、いくっ。」 佳奈恵の重みが腰に伝わり、密着した結合部が見えなくなる。肉を震わせて彼女はこちらを見た。 「ねぇ。今の私だけ見ててよ。」 佳奈恵の言葉にはっとした。彼女が生きる未来を考えても意味がないのだ。彼女を蝕む癌は着々と内側を犯している。くだらない希望的観測は余計に彼女を苦しめるのかもしれない。ようやくペニスに快感が宿っていることを自覚し、智哉は彼女の尻を鷲掴みにした。 言葉を交わすことなく腰を打ち付けていく。次第に肌と肌がぶつかり合う音が激しく鳴り響くも、智哉は木にすることはなかった。少し腰を浮かせて蜜壺の奥を削っていく。紫外線のように臀部から伝わる熱が管の中で形となり、東京の夜空に深々と射精した。 「すごい…激しかったね。」 微笑みながらそう囁く佳奈恵を見て、智哉は希望を捨てられずにいた。ずっと生きていてくれないか。そんな情けない言葉は唾と共に体の中で消えた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

261人が本棚に入れています
本棚に追加