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智哉は佳奈恵と会う頻度を減らしていた。 自分で決意したにも関わらず、美希と山の中でした日からどうも会う気になれないのである。やはり妻を愛しているから、そんなわがままな思いがあるのかもしれない。33歳にもなってどちらか1つを選ぶことができない自分が情けなかった。 「お疲れ様です、係長。」 1人だけだと思っていた喫煙所に、ネクタイを緩めた寺内が入ってきた。お疲れと返して2本目のタバコに火をつける。セブンスターの濃い煙が昇ったかと思えば、すぐに空気清浄機の中に消えていく。 「この間の、例の女性ですか。」 「ああ。びっくりしたよ。まさか角を曲がったところに仲の良い後輩社員がいるとは。」 けたけたと笑って2人は煙を燻らせた。2人しかいないからこそできる会話に、つい声が大きくなる。寺内は鼻から煙を抜いて言った。 「でも、非情ですよね。あんなに綺麗な人が余命3ヶ月なんて。」 確かにな、と呟いてから智哉は頭の中で計算を行った。あの夕暮れ、千川駅前のコンビニエンスストアで佳奈恵と再会してから既に1ヶ月が経過している。だとしたら後2ヶ月しかないのか、突然不安に駆られてしまった。寺内はぼんやりと灰皿を眺めながら言う。 「実はあの時一緒にいた俺の彼女、看護師やってるんですよ。だからさりげなく聞いてみたんです。末期の食道癌って薬物療法、放射線治療、色々あるみたいなんですけど、どれも副作用がとてつもないそうです。もちろん副作用の症状を軽減させるための治療もあるらしいんですけど、その人に合った選択肢を取れば、もしかしたら保険適用外になる恐れもあるって。」 「じゃあこれなら治るっていう治療法でも、治療費が莫大ってことか。」 諦めたように寺内は頷く。世界は非情だ。早期発見といえばそれまでだが、もっと他に対処法はないものか。智哉の不安に追い打ちをかけるかのように、携帯が震えた。佳奈恵からのメールは題名もなく、本文も短い。それが今の智哉にとっては起爆剤となった。 「まずい、佳奈恵が気を失ったらしい。」
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