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同僚の女性から労働をねぎらう声をかけられ、廊下を歩きながら智哉は会釈した。新規事業が始まるということもあってか皆妙に浮き足立っている。定時を迎えて智哉は喫煙所に入った。ガラスで仕切られた煙の空間で、先客に声をかけられた。
「係長、お疲れ様です。」
「おう。お疲れ。」
同じ部署の寺内柊太がタバコを燻らせながら頭を下げる。中途採用ながらその実力を発揮し、企画制作部の中でもその若さから課長に期待されている。社交性もあって、智哉はまるで歳の離れた弟のように接していた。
「いやー、取材はうまいこといきましたけど、先方の注文が多過ぎませんか。デザインに口出しすぎでしょう。」
様々な会社を経営し、テレビにも出演しているタレントが新しく立ち上げる運送会社のパンフレットの製作依頼を受けている。智哉はセブンスターに火をつけてため息と共に煙を吐いて言った。
「まぁ相手方の注文を受けて、ざっくりとまとめちゃえば後は工場に回すだけだ。そんな気難しく考えない方がいいぞ。」
部屋の真ん中に大袈裟な装置のように佇む灰皿は空気清浄の役割も担っている。低く唸って毎秒汚し続ける空気を片っ端から削除していた。
「それに、あの会社に気に入られたら今後色々な仕事が入ってくるだろ?そりゃ課長も念を押すよ。」
毎日口を酸っぱくして部署を盛り上げる課長はこの企画に力を入れていた。それは出世のためなのか顧客のためなのかは分からない。
「あの、係長。この後飲みに行きませんか。」
寺内との食事は今までも何度かあった。給料日前ではあるがいいだろう、仕事に熱心な彼のことだ。酒が進むにつれていいアイディアが出てくるかもしれない。
「じゃあ駅前の蔵しげでいいか。」
「いいですね。あそこ新メニュー出来たの知ってました?」
何気ない世間話を続けながら、2人はゆっくりとタバコを燻らせていった。
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