錆色の幸せ

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 いつもより(ざわ)ついた駅の様子に異変を感じて耳を澄ますと、電車が事故で止まっているという駅員の苛立ったアナウンスが聞こえてきた。 なんなのよ。もう。 麻美はそれならばタクシーで帰ろうと土砂降りの中、駅を出てタクシー乗り場へと足を進めた。  けれど同じ考えの人が多数いるらしく、タクシーは1台もなく、タクシー乗り場はカラフルな傘が行列を作っていた。 もう嫌。何もかも嫌。 あまりの上手くいかなさに、麻美は全てを投げ出したくなった。  そもそもこの駅に来たのだって、不妊治療で産婦人科に通うためだった。 完全予約制のその病院に、悲しい現実を愛想笑いで告げられるためだけに通う自分。 次回の予約も病院の指定した日時で、麻美は普段仕事をしている曜日と時間帯だ。 またシフトを代わってもらわなければならない。  麻美は唇を噛んだ。 みんな表向きは穏やかに代わってくれる。 「いつでも言って」。 だけど裏の喫煙所で、休憩室で「高林さんは可哀想だから仕方ないわね。あらあなた知らないの?」と広められて、普段交流のない人にまで勝手にプライバシーを握られて、誰かが何かに苛立てば「高林さんはいいわよね。みんなに優しくされて」と八つ当たりされる対象としてみんなに共有される。 そんな毎日にうんざりだった。
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