多種族の生きる世界

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多種族の生きる世界

その世界には、僕たちの住む世界とは違って、様々な種族が共存していた。 人族は勿論、巨人族や小人族、精霊に妖精に竜に一角獣―― 数を挙げればきりがないけれど、それだけたくさんの生き物たちが、 生まれては死んでを繰り返していた。 その中に、僕は一人の巨人族の少女を見付けた。 彼女は同族の中でも一際背丈が大きく、丈夫な身体を持っていた。 しかし、彼女には友人と呼べる友人がいなかった。 何故かって? 何故だと思う? ――え、強さを鼻にかけて煙たがられていたから? 違う違う、そんなんじゃないよ。 むしろその逆なんだ。 彼女は、戦闘を好む巨人族に生まれながら、荒事を好まなかったんだ。 そんな彼女を、周りの奴らは「ハーフウィット」と呼んだ。 「半端者」という意味だ。酷いだろう? 巨人族は、比較的小規模な集団で行動し、基本定住はせず、 移住を繰り返す。 彼らは常に戦場を求めて、頻繁に大海を渡っては大陸を行き来した。 他種族との衝突で、自分たちの戦闘欲を満たしていたんだ。 とは言っても、結果としては剛健な彼らの一方的な侵略戦争に 終わることがほとんどだった。 小人族や森の動物たちなんかは、彼らを恐れる以外成す術を持たなかった。 しかし、その中でも唯一、巨人族に匹敵する力を持ちうる種族がいた。 人族だ。 彼らは個々の武力こそ巨人族の足元にも及ばなかったけれど、 大規模な集団を作り、巨人族に、それどころか 全種族にも勝る圧倒的な知性を働かせることで、 巨人族の支配から逃れていたんだ。 巨人族と人族との争いは何百年と続き、 (無論、僕らの感覚で言えばほんの数秒間のことだけれど) その間どちらかの支配体制が確立することもなかった。 どちらも勝ったり負けたりで、中々勝負がつかなかったんだ。 やがて海や空や森の生き物たちは人族側に味方をし、 精霊やその他一部の者たちは巨人族側に味方をし、 世界はそれら二大勢力を中心に、深刻な種族戦争に発展していった。 そんな、決して平和とは言えない世界の中で、 その巨人族の少女は生きていた。 未だ戦いに加わったことはない。 自ら仲間たちのもとを離れ、一人深い渓谷に暮らしていた。 底に流れる水を飲み、キノコや木の実や その他よくわからないものを食料にして、 ただ戦が収まるのを待って寝起きする日々を送っていた。 その渓谷は大陸の西端に位置しているのだけれど、 不思議とそこへ近付く者は彼女以外にいなかった。 その理由は、彼女にも分からない。 けれどもある日、その渓谷へ侵入する者が現れた。 結論から言ってしまえば、 この出来事が長年続いた戦争の終焉に繋がるカギとなったのだ。
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