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「…じゃあさ…こんな続きはどう?
主人公と相手役が高校の時さ
何にもない、真っ暗な田んぼ道で
街灯に照らされた踏切の前にいて…
主人公が相手役に、電車が通過した時に…告白をしたじゃない?」
何にもない、真っ暗な田んぼ道
街灯に照らされた踏切の前
雨上がりの冷たい風と、小さな虫の鳴き声
遠くの方の田んぼからはカエルが鳴いていた
空は雲ひとつなく、星空が高い
あの時
踏切の遮断機が降りてきて
私達は踏切の白熱灯に照らされ電車を待ったんだ
『あのさ、大宮くん
大宮くんが好きだよ
今は無理でも、私も大宮くんが好き』
でも
『なんて言ったの?ゴメン聞こえなかった』
大宮くんは…そう、答えたんだ
だから、漫画にもそう描いて…
「それから時が経ち…
主人公の部屋で
俺は
佐和子に想いを、伝える
俺は、あの頃から…
今まで
佐和子が好きだよ
ずっと言いたくて、言えなくて後悔していた
佐和子がわからないと言った時
俺に気を遣っているんだって、わかったから
その後に佐和子が言った言葉は、聞こえないふりをした
あの日、佐和子と何年かぶりに再開した時にも…
好きだって伝えられなかった
なんだか会話すればするほど…
佐和子が、遠くの人になってしまったみたいで
伝えることが出来なかった
でも
やっぱり…
佐和子が好きな気持ちは、変わらなかった」
「…やめようよ、大宮くん
そんな話
過去の話は、思い出補正とかで美化されがちだし
もう私たちいい大人だよ
いつまでも高校生のままじゃないし
いつまでも高校生のままじゃいられないんだよ…
過去にすがって何になるの…?
私たちが進める方向は未来しかないんだよ…?」
人生には、区切りがあって…
卒業とか入学とか入社とか、結婚とか出産とか…
そのステージごとに、人間関係って変わっていくんだ
そうすると、疎遠になったり逢わなくなっちゃう人も、まあいるよ
でもそれは過去の思い出として区切ってるだけで、嫌いになったからじゃない
だからたまに、その過去に出逢った人と再会する時もあるけど
過去は過去だから、その時のその人のまま…と言うわけにはいかないんだよ
「漫画の中のシナリオと、現実世界は違う…」
お互い歳を取り過ぎてしまった
あの頃と今とじゃ、考え方も生き方も違う
17歳の頃の私とは違うんだ
そして
17歳だった頃の大宮くんとも
違う…
「そうだよ
いつまでも高校生の時のままじゃいられないし
いつまでも高校生のままじゃない
そして
いつまでも高校の時の俺とも違う
もう俺たちは大人なんだから
…でも
大人になっても
変わらないものだって、あるんだよ
佐和子はさっき
「過去にすがって何になるの、私たちが進める方向は未来しかないんだよ」
って言ったね
でも
過去があるからこそ、未来が、今があるんだよ
過去に得た経験や知識や、変わらないものの力を使って、未来に進む方法だってある
佐和子が今描いている物語だって、そうでしょ…?
過去は終わってしまったものじゃない
未来に進むために必要なものだ」
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