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だけど
いざ、手元からその未来が、砂のようにさらさらと零れ落ちていく現実と直面すると
こんなにも…
私は無力だ
「静養しましょうかって言われたとしても
すべてが終わってしまったわけじゃない
スゴロクでもさ、1回休みとかあるじゃん
人生もスゴロクと似ていてさ
羽ばたく力が無くなってしまったのなら
少し一休みすればいいんだよ
そして、また飛び立てばいいじゃないか
翼を捥がれたわけではないでしょ?
飛ぶ羽はあるんだ」
そんな…
そんなの…
「私が休んでいる間にも
ライバルも…また新人も…どんどん出てくる
デビューに遅れを取っていた私が、こんなところで躓いていては
もう、追いつけなくなってしまうかもしれないんだ
この世界は、そんな優しいもんじゃない
喰うか喰われるか
勝つか負けるか
実力社会なんだ…
そんな世界で…
休んでる暇なんて、私にはないのに…!」
ただでさえ
私が欲しかったものを
いとも簡単に手に入れていくmio
簡単ではないのかもしれない
でも、私が苦労して手に入れてきたものを
彼女はすごく簡単に手に入れているように見えるんだ
綺麗で
若くて
読者人気があって
編集部に可愛がられて
才能もある
私は…?
私は…
私には…
ぽろぽろ…と目から涙が溢れて、はたはたとソファに落ちてシミを作った
私は…
何の取り柄もなく、価値がない
でも絵だけは、漫画は褒められた
『佐和子ちゃんまた入選したの!?』
『すごいー!佐和子ちゃんやっぱ絵が上手だね!』
その時、生きている意味を感じたんだ…
『先生にファンレター来てますよ!』
価値のない存在なんかじゃないと思えたんだ…
私は生まれてきたなら、生きた証を残したい
漫画を描いて
生きた証を、この世に残したい
生まれてきて、よかったんだと思いたい
なのに…
『ゆっくり静養してから再開しましょうか』
「漫画が描けなくなったら…
漫画が描けない私に
なんの意味があるの…?
なんの価値があるの…」
何の取柄もなく
価値がない
そんな人間は、生きる意味…
「…どう、したの…?」
大宮くんは
強く
強く私を抱き締めて
離してくれない
「取柄って必要なのかな
価値はなければ、いけないのかな
生きている意味は、必要かな
漫画を描いて、褒められた自分に価値を見いだすなら
生きている意味を見いだすなら
漫画が描けなくなったら
佐和子は価値もなく、生きている意味もない人間と言う事になる
人が生きている事に、意味などない
死に着実に向かっている、その事実だけだ
俺は
君がこの世にいてくれるだけで、嬉しい
この世界で、君と言う人間に出会えて
幸せだ」
ああ
そうか…
”生まれてきて、よかったんだと思いたい”
それはつまり
自己否定で…
『この世にいてくれるだけで、嬉しい』
もしかしたら私は…
ただ、それだけを言われたかったのかもしれないな
こんな私でも
存在してもいいんだ、って事を
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