It is not in the stars to hold our destiny but in ourselves

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ひたすら ひたすらに 漫画を描いた 大好きだった大宮先生の事も 嫉妬で執着していた赤羽佐和子の事も 考える余裕や、暇もないほどに 私はひたすらに漫画を描いていた うっかり暇な時間が出来そうものなら 絵や漫画を描いてネットにアップしていた そんな中で テレビドラマ化の話を頂いて 浪人したのに藝大に進まなかった私を、一時悲しそうに見ていた親や、周りも喜んでくれて お墓参りでおじいちゃんにも報告して ふと、大宮先生にも伝えてみようかな、と思った メッセージを送ってしばらく携帯を見ないでいたら、いつの間にか先生から着信が入っていて折り返す 数コールで出た大宮先生 「メッセージ見たよ」 久しぶりに聞く大宮先生の声 「大崎は、なんとかって雑誌で 漫画描いてたんだな」 「そうですよ」 予備校に行った最後の日 漫画家デビューして、漫画を描いているとは大宮先生には言ったけど 載っている雑誌もそうだけど、作家名も告げていなかった 告げずに、いた それは いずれ私が作家として有名になれば 私の作品が大宮先生の目にも触れると思ったから …とまではその時は思っていなかったけど でも 『いつか、大宮先生も 大宮先生が好きな相手も… 同じ絵描き同士、負かしてみせるから 覚悟して下さいね』 って言う、ちょっとした復讐心と言うのか… 見返してやるって言う、気持ちがあったから 告げずにいたんだ 逃した魚は大きいぞ、とまでは言わないけど そう思われたら… ううん そう思いたい自分がいたんだ、ずっと… なんて、負け惜しみなんだけどさ あなたなんかもう眼中にないんだからって、言いたかっただけなんだ 「今度時間がある時 食事でも、一緒に行くか?」 「え…」 雑多な新宿の人ごみ 大宮先生が予約してくれた、三丁目にあるお肉料理が美味しいと評判の飲食店で食事をする事となった 席に着いて運ばれてくるお肉を食べながら、気になっていた事を聞く 「大宮先生は… なんで食事に誘ってくれたんですか?」 じっと大宮先生の瞳を見つめたけれど 私と目の合った大宮先生は、表情一つ変えずに言う 「テレビドラマ化のお祝いだよ」 …そっか 「嬉しい ありがとうございます」 無味乾燥な気分で、定型文のような言葉を返した しばし大宮先生と食事をしていたが 先生はカトラリーを置くと、私をじっと見て来たので その視線に目を合わせた 「大崎に 一つ聞きたいことがある」 「なんですか?」 「あの日、予備校で大崎は 「大宮先生の片思いの相手、知ってるんですよ」 って言っていたね?」 「そうですね」 「大崎は、さ…、菜園先生と交友があるのか?」 「…デビューした時 担当が菜園先生と同じ人で、その関係で…一度会ったことはあります」 と言うと、大宮先生は一瞬目を大きく見開いたが 再びいつものやる気のないようなアンニュイな表情 「そうか …俺の片思いしてるって相手は、その菜園先生だよ 学生時代、同級生だった」 ああ… やっぱりそうだったんだ そう言う関係だったんだね 「大崎はあの時、俺の片思いの相手が菜園先生だと知っていたって事か?」 「…知っていたと言うか… 賞貰った雑誌で菜園先生の漫画の絵が、昔、大宮先生が見せてくれたクロッキー帳に挟まっていた、大宮先生を描いたイラストと一緒で…もしかしてって、思っただけです」 「はあ…なるほど…」 大宮先生はため息を吐きながら、額に手を当てる 「菜園先生、今月掲載されなかったけど 大崎はなにか知っているか?」 「っはは! なんで私に聞くんですか? 直接本人に聞いたらいいじゃないですか! なんで掲載されないんですかーって! 大宮先生は、菜園先生と同級生で、連絡先も知ってるでしょ?」 私より、親しい間柄なんだから… 「まあ、そうだけど」 なんやねん、そうだけどって! 「大宮先生… いつまでも煮え切らない態度のままだと 片思いの相手と上手くいかねーんじゃねーの?」 「え…」 なんちゃって でも、そうだよね、武蔵くん 「まあ、よくわかんないですけど うじうじ悩んでるくらいなら、連絡すぱっと取ったらいいじゃないですか! うっとおしい!」 「口悪いな、さっきから…」 「大宮先生がうじうじしてるからですよ まあ、頑張って下さいよ、色々」
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